A requiem to give to you
- 月が微笑み、焔は夢見る(5/8) -

受けた被害はともかく、こうして実際に人が何もない所から現れたと言うのは疑いもない事実だった。



「本当、だったんだな……」



しかしこれでルークが考えていた事を起こす理由が出来た。



「なら話は早いぜ!」



思い立ったようにそう言ったルークにヒース達は不思議そうに見ていたその時、



「ルーク様、こんな夜更けに何を騒いでおられ………」



一人の青年がそう言うと同時に部屋の扉を開けて入って来た。恐らく使用人だと思われるその青年は、本来ならこの場にいる筈のないヒース達を見て扉を開けた動作のまま停止した。



「貴方は"ルーク"と言うのね」



一度は青年を振り向いた涙子だったが、直ぐに何事もなかったかのようにルークに話し掛けた。ルークは自分がまだ名乗っていなかった事を思い出し、あぁと言って頷いた。



「俺はルーク・フォン・ファブレだ」

「フォン? じゃあルークは貴族か何かなのか?」

「そうだけど……」

「ルーク様は我がキムラスカ・ランバルディア国国王の最愛の一人娘、ナタリア殿下の従姉弟兼許嫁にあたられる方ですわ」

「まぁ、すごいのねぇ」

「ま、まあな!」

「ルーク様、何故そこで照れていらっしゃるのですか?」

「ばっ、誰も照れてねー!!」










…………………。











そこではたと会話は止み、その場に何とも言えない沈黙が降りた。



「………ところで、貴女はどちら様ですか?」



先に沈黙を破ったのはヒースだった。彼はいつの間にか会話に加わっていたメイド服を来た女性に問い掛けると、女性は営業スマイル(?)を浮かべて一礼した。



「申し遅れました。私はファブレ公爵邸に仕える使用人、フィーナ・レンテルです」

「あ、僕はヒースと言います」



あまりにも丁寧な物言いにヒースも慌てて礼をして返す。彼の名前に涙子は疑問符を浮かべたが、直ぐそれが偽名だとわかり納得した。



「私は…………」



流れ的に次に名乗るのは自分だろうとは思ったが、聖が偽名でいく以上こちらも偽名でいかなければならない。涙子は一瞬悩む素振りを見せ、そして名乗った。



「私はタリス・クレイア。………それはともかく。あそこで物凄い表情のまま固まっている人は使用人さんかしら?」



涙子……タリスの言う先には先程から何故か動かない青年が文字通りまるでこの世の終わりのような顔をして固まっていた。それにフィーナと名乗る女性はしまった、とでも言うように声を上げた。



「そう言えば先程、ガイがドアを開けた時にうっかり触れてしまってそのままでした」



どうやらガイと言う名の青年はヒース達に驚いたと言う訳では(多分)なかったらしい。コツンと自分の頭に軽く拳を当てて苦笑するフィーナにルークは「しっかりしろよ」と苦笑いで注意する。それにフィーナも同じ様に小さく笑って謝った。



「取り敢えず、起こしてあげたらどう?」



何だかあまりにもガイが不憫に思えてきたヒースが促すと、漸くルークが動き出した。



「おーい、ガイー。生きてるかー?」

「ベタな呼び掛けねぇ」

「そこちょっと黙ってろ」



クスクスと笑いからかってくるタリスにピシャリと言い、ルークはガイを起こす為に彼を揺すったり叩いたりした。



「…………! ルーク!」



暫くしてガイは見事に現実へと戻る事が出来た。



「お前なぁ。人の部屋に来る早々何気絶してんだっつーの」



半眼になって呆れたような、怒ったよな様子のルークにガイはバツが悪そうに頭を掻いた。


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