A requiem to give to you- 月が微笑み、焔は夢見る(4/8) -
「ぶはっ…………あー苦しかった」
ゼェハァと胸を押さえてそう言うルークにヒースは「ごめん」と小さく謝った。
「謝るくらいなら最初からするなっつーの。……つーか、そもそもお前は一体何しに来たんだ?」
「それが………」
ヒースはこれまでの経緯などを話した。元は自分が友達と共に待ち合わせていた公園にいた事や樹に呑み込まれてここにいた事、そしてこの国と使われている文字が違う事など包み隠さずに話す。
「………って、俺の日記見たのかよ!」
「悪気はない。それにどの道読めないから安心しろ」
「そう言う問題じゃぬぇ!!」
……とは言うものの、ルークにとって彼の話す事の全てが信じがたい事であるのは変わらなかった。ヒースの話を要約すれば、早い話彼は異世界から来たと言う事になる。ルークだってもう15だ。そんなお伽噺のような話を、そう易々と信じられる方が不思議に思う年頃なのである。
(やっぱ兵につき出した方が良いかな。……いや、でも)
同じ年頃の友達の少ないルークにとって、今目の前にいるヒースの存在は珍しい。それと同時に少し興味があった。万が一にも彼の言う事が本当だったなら、直ぐにお別れと言うのは何だかすごく勿体なく思えた。
「………ヒース、って言ったよな」
暫し考え、ややあって口を開くとヒースは「うん?」と言って首を傾げた。
「あのさ……─────」
ルークが再び口を開いたその時、彼の頭上が一瞬光った。それに気付いたヒースが声を上げる前に、ルークは既に光から出てきた物の下敷きになっていた。
「痛………。もう、何て日なの。最悪ったらないわ」
「うわ、皆川……」
落ちてきた人物は理不尽にもタタル渓谷から飛ばされてきた涙子だった。予想外の登場人物にヒースが思わず引き気味な声を漏らすと、涙子は「あら」と振り向いた。
「誰かと思えば貴方だったの。でも人の姿を見るなりうわ、とは一体どういう意味なのかしらねぇ?」
グイッと胸ぐら掴まれて引かれたかと思えば、ニッコリと微笑む涙子の顔が目の前にあった。ここに来るまでの間に何があったのかは知らないが、彼女が相当不機嫌である事はよくわかった。……が、まずヒースが言いたい事はただ一つだった。
とにかく怖い。
「言いたい事はわからないでもないが、とにかく落ち着こう」
「あら、私はいつでも落ち着いているわよ。……それよりも、よくも遅刻してくれたわねぇ」
待ちくたびれて拳鍔で樹を殴ってしまったじゃない、と涙子は言うが、正直そこら辺はヒースの知った事じゃない。確かに遅刻してしまったのは自分だ。危うく傷害事件が起きかけた事も謝ろう。しかし、今問題視すべき所は遅刻云々よりも他にあった。
「ところで皆川」
「何かしら?」
「そろそろそこから退かないと、君の下にいる人が死んでしまうんじゃないか?」
下を指差しながら言うヒースに釣られてそこを見ると、彼女は漸く誰かを潰している事に気が付いた。
「あらまぁ。ごめんなさいね」
涙子はひょいっと上から降りると、ルークはゆっくりと起き上がった。その額に沢山の青筋が浮かんでいるのはこの暗闇の中でもよくわかった。
「お前らなぁっ!」
「まぁ、そう怒らないでくれ」
「不法侵入された挙げ句貴重な睡眠時間まで削られて、更には突然降ってきた人に押し潰されれば普通に誰だって怒るっつーの!!」
「でもこれで信じてくれただろう?」
あくまでも淡々と宣うヒースに何がっ、と言いかけたルークは直ぐにハッとして彼らを見た。
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