A requiem to give to you
- 月が微笑み、焔は夢見る(3/8) -


ポゥ……と翳した青年の手のひらが淡く光り、そこから杖が出現した。それに涙子は驚きを隠せなかった。



「なっ、……魔法!?」

「魔法? 違う。これはコンタミネーション現象だ」



常人に易々と出来るようなものではないがな、とどこか馬鹿にしたように言いながら、杖を地面にダンッと突き刺した。すると杖が刺さった所を中心に陣が広がり、そこから放たれる光が涙子を包むように取り巻いた。



「何なの!?」

「別に害はない。ただ、お前をお前の仲間の元へ送るだけだ。それと……ほら」



青年から何かを手渡された。手に感じるそれはなくしたと思っていた眼鏡だった。



「無きゃ困るものだろ。今度は落とすなよ」

「あ、ありがとう……って、そう問題じゃないわ! 大体仲間の所って……
















……え?」



文句を言おうと開いた口は視界の戻った目で青年を見た途端にその声は消え失せ、変わりに呆然とした声が出たまま中途半端に固まった。



「貴方は………!?」

「じゃ、精々頑張れよ」



驚愕の目で自分を見てくる涙子に青年はフッと笑みを浮かべ、踵を返した。一歩足を踏み出した時には、既に涙子の姿は消えていた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







ルークは今、非常に困っていた。叫び声を上げようとした口の上には他人の手が乗せられている為に出す事が出来ず、暴れようにも相手との距離が近すぎてそれすらも叶わなかった。



(な……何なんだっつーの!!)



事の始まりは数分前。

最近、彼の住むバチカルは一気に冬の空気へと変わり、薄着ではなかなか寒くなってきた。その為もあってか、この頃はやたらとトイレが近くなり、夜もこうして目が覚める事がある。



「う〜………寒っ」



目を開き上半身だけ起き上がり、寒さに軽く刺激されて完全に覚醒する。








…………と、ここまでは良かった。

いつも通り用を足そうとベッドから出ようとした時、部屋の隅で何かが動く気配を感じた。何事かと思いつつも恐る恐る首を動かして見てみると、知らない人と目が合った。



「あ…………」

「………へ?」














……………………。
















そして今に至る。しかしながら、相手は一体どうやってここまで侵入して来たのだろうか。見たところ年はあまり自分と変わらないように思える。最初は泥棒か誘拐、もしくは暗殺に来たのだと思った。だが、何だか様子がおかしい。

実はルークは気付いていなかったが、当の相手………聖もまた人を呼ばれる面倒事を避けたのは良いが、これはこれで身動きが取れなくて大分困まっていたのであった。



「………あのさ」



考え抜いた挙げ句、聖はポツリと呟くように口を開いた。



「こんな事をしておいてアレなんだけど………。僕は別に怪しい者じゃないから」



いや、どう見ても怪しいだろ。

ルークは直ぐにでもそう返したかったが、口が開けないので心の中で突っ込んだ。しかし聖はそんな彼の心情などお構い無しに続ける。



「僕は…………え〜と、ヒース? ……って言うんだけど」

(何で自分の名前なのに疑問系なんだ!?)

「実は困った事に何で自分が今ここにいるのかがわからない」

(はぁ!?)

「……と、言うわけで。ちょっと相談に乗ってはもらえないだろうか?」

(何がと言うわけなんだかそっちの方がわかんねぇっ!)



言いたい事は多々あるわけだが、何度も言うように目の前で好き勝手に喋り続けるヒース(?)に口を塞がれているので何も返す事が出来ない。



「ン゙ーン゙ーッ!!(とにかくこの手を離せーっ!!)」



話しはそれからだ!と言うルークの必死の言葉なき訴えが通じたのか、漸くヒースは彼の口から手を退けた。


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