A requiem to give to you- 生きたい気持ち(5/6) -
「それはそれであんたの都合だよな」
陸也のどこか皮肉るような言葉に、グランツは「そうかも知れん」と頷いた。
「だが、生きるつもりもないのに無理矢理生かし、脱け殻のようにただ時間を過ごすのも、私には酷に思えるのでな」
「……………」
宙は暫く俯いて考え込んでいたが、やがて顔を上げると出来る限りの熱くない場所に移動して少年を降ろし、顔を合わせた。
「……………」
少年の顔色は決して良いものではない。かなり衰弱し、表情も虚ろで体に力が入ってはいなかったが、彼の深緑の目だけはどこか強い光を放っているように思えた。そしてそれは、消えていったあの少年よりも更に強い輝きだった。
その瞳に賭けて、宙は少年に問い掛けてみた。
「君は……
いきたい?」
少年の瞳が一瞬揺らいだ。
「………………」
それから少年は黙ったまま宙を見ていた。長い時間が経ったように思える。それでも宙は待っていた。少年が自分自身の答えを出すのを。
「………ぼ、く……は」
小さく、細々とした声が宙の耳に入る。
「ボクは……………生きたい」
確かに少年はそう言った。弱々しく伸ばす手を宙は優しく取って彼の身体を抱き締めた。
「そうだね……。一緒に行こう。生きよう」
その時、宙の後ろから小さな歌が聞こえた。振り返った時には既に止み、足元には大きな陣がこの場全体に広がっていた。
「これは……?」
「第四譜歌【リザレクション】だ。治癒効果がある」
その言葉に宙は少年を見ると、先程までの火傷や痣は綺麗に消えていた。
「……すごい」
宙達は素直に感嘆した。同時に、足の怪我がなくなったフィリアムが口を開いた。
「あの、どうして俺まで……?」
「その怪我では辛いだろう。私とて、命を無駄にしたい訳ではない。助けられる者は助けたいのだ」
「……あ、その……」
ありがとう、と言う言葉は周りの音に掻き消された。しかしグランツはしっかりと聞き取っていたらしく、小さく笑ってフィリアムの頭を撫でた。
「………ンで、どうするンだ?」
陸也は周りに聞こえないくらいの声で宙に言った。
「どうするって?」
「これからの事に決まってンだろうが、馬鹿」
首を傾げる宙に陸也は呆れたように小突いた。
「……オレとしては、あのオッサンの言うダアトへ行った方が良いと思うぜ」
「それは……」
「確かに色々と怪しい部分があるけどよ。このまま無闇に放浪するよりは、どこか拠点を置いてしっかりて情報を集めた方が良い」
その方が早く涙子達を見付けられるかも知れない、と言う彼に宙は悩んだが、暫くして諦めたように溜め息を吐くと渋々頷いた。
「………わかったよ」
陸也は宙の了承を確認すると、直ぐ様グランツの元へ行った。
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