A requiem to give to you
- The white departure(10/11) -



レジウィーダの気配が変わった。顔こそ見えないが、今までの……グレイが知るのとは違う彼女の様子に彼は戸惑いを隠せなかった。いつもの騒がしさでも、煩わしさでもない。そこにあるのは温度のない気配のみ。



「坂月君、アンタはお人好しだよ。人の手を汚させないようにする為に自分が辛い思いをしてる。アンタはあたしをバカ呼ばわりするけど、あたしから言わせればアンタの方が万倍バカだ」

「なんだと……」

「凄くムカつく。外に出られなかったのもそうだけど、何よりも一人で何もかもやろうとしてた事が何よりもムカついた。………でもね、」



凄く、嬉しかったよ。

そう呟かれた言葉にグレイは目を見開いた。その瞬間、抑え込むと腕の力が弱まったのをレジウィーダは見逃さなかった。



「だけど……その優しさを向ける相手が違うよ」



レジウィーダは首に回るグレイの腕から素早く抜け出すと、振り向き様に譜業銃を蹴り上げた。



「な………!?」



突然の事に対応しきれずに譜業銃を手放してしまったグレイは慌てて懐からナイフを取り出す。瞬間、レジウィーダがいつしかの拳顎を手に力一杯突進してきた。

ガキン、と金属のぶつかり合う音が響いた。



「あたしは」



レジウィーダは素早く気を高めると詠唱を破棄した譜術を繰り出した。グレイは直ぐに一歩下がって避けるが、それよりも速くレジウィーダが次に動いた。



「アンタが思ってるほど弱くはないよ」



今度はレジウィーダがグレイの腕を鷲掴みにすると、勢い良く踏み込む。そして……───



「それに……
























綺麗でもないんだ」



暗く冷たい、冬の海へと投げ落とした。



「ぐっ………は、テメ………ッ!」



寒さが苦手なグレイには堪ったものじゃなく、慌てて岸に向かい泳ぐが丁度船が出航し、その波に圧されてなかなか戻る事が出来ないでいた。

レジウィーダは船の甲板に飛び乗ると、海を見下ろしグレイに言った。



「坂月君……、皆の事………フィリアムをお願いね」

「……なに、言って」






『わたしがいない間、みんなの事頼むね!
















陸也』






「! また………!?」



再び掠めたモノに文句を言おうとした言葉を呑み込んでしまった。その間にも船は進み続け、気が付いた時には既に追い付けない所まで離れていた。



「ち、くしょ……あの馬鹿女………!!」



少女を乗せた船を追う事も叶わず、グレイは悔しそうに拳を握り締めた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「ごめん……」



既に見えなくなった彼に向かって小さく呟いた。勿論、それが彼に伝わる事はなかった。



(でも、君が優しさを向けるのは、あたしじゃないんだよ)



そう心の中で呟いて目を閉じた時、



「寒いのが苦手な相手にえげつないな、お前」



不意に後ろからそんな声が聞こえた。



「……いつから居たんだよ」

「今だよ、今」



そう言ったトゥナロにレジウィーダは振り向かずに訊いてみた。



「複雑?」

「なにが?」

「……色んな意味で」



それがどう言った意味を持つのか、知るのは訊いた本人のみ。しかしトゥナロは言いたい事がわかっているのか、肩を竦めると「さあな」とだけ言った。


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