A requiem to give to you
- The white departure(7/11) -



「導師!!」

「は、はい!」



急に呼ばれ、ビクリと肩を揺らすイオンにグレイは叫ぶように言う。



「その辞職届、保留にしとけ! いいか、絶対判を押すなよ!!」

「え、あ……はい! わかりました」



イオンが頷くのを確認するや、グレイも直ぐ様レジウィーダの後を追い掛けた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







───ダアト商業区



「ったく、何でボクがアンタの買い物に付き合わなくちゃいけないのさ」



不機嫌そうに文句を垂れるシンクは斜め前を歩くアリエッタを睨み付けた。するとアリエッタは目的の物が買えた為か、両手に抱える縫いぐるみを嬉しそうに抱き締めながら言った。



「だって、シンクがアリエッタのお菓子食べちゃったんだもん」

「それはアンタがその辺に置いといたのが悪い。大体、その後……アイツのところで散々食べたじゃん」

「でもシンクから謝ってもらってないもん」

「だからってこの寒い中業々買いに行かなくても良いじゃん」



雪降ってるしさ、と言ったシンクは近くにあった雪だるまを蹴り壊す。それを静かに見ていたフィリアムが口を開いた。



「……と、言ってる割にはお前も結構買い込んでたよな」



1ダースはあるだろ、とフィリアムはその両手に抱える沢山の『チーグル製菓 まっしろトリュフ』と書かれた箱を掲げた。どうやら彼は荷物持ちに連れて来られたらしい。その為か、どこか機嫌が悪そうだったが、二人は当然のように宣った。



「だって限定品だし」

「雪祭りフェアだって、言ってたです」

「……誰が?」



フィリアムが問うと、二人は揃って彼の後ろにいる人物を指差した。



「……………」

「な、なんだ!? 何か文句でもあるのか!?」

「……いや、別に」



ただ少し、意外だと思っただけだよ。

そう言うと後ろにいた人物……リグレットは恥ずかしげに顔を背けた。



「わ、私はただ閣下に食べて頂きたいと思って買っただけよ。決して、こんな可愛らしい物を食べる閣下の姿が見てみたいだなんて思っていない!」

((思ってるんだ……))



小さくて見た目モコモコなまっしろトリュフをウフフアハハな表情で美味しそうに食べるヴァンの姿を想像したシンクとフィリアムは途端に口元を手で押さえて悶えた。



「シンク、フィリアム。一体何を想像している」



ジロッと彼女特有の睨みを利かせど問えば、二人は無言で首を横に振ったのだった。そして……



「ニャッホオオオオオオオオオイッ♪」

「ゴハァッ!?」



そんな二人に向かって何かが突進してきた。……と、言ってもフィリアムは素早く避けた為、被害を受けたのは実質一人だが。



「あ、レジウィーダ……です」



避けきれなかったシンクをこれでもかと言う程に抱き締める人物、レジウィーダを指差してアリエッタは言った。



「んもうっ、可愛い子ちゃんらと美人さんが揃って何してるん?」

「約30年ぶりにダアトに雪が降った記念に開催された雪祭りフェアとやらのお菓子を買ってた」



最早ツッコミすら入れないフィリアムが簡潔に答えた。レジウィーダは「お菓子」と言う言葉に過剰反応をするとフィリアムの抱える箱を物欲しそうに見詰めた。



「〜〜っ、アンタにはやらないからな!」



欲しいなら自分で買えっ、と何とか拘束から抜け出したシンクがそう言うと、レジウィーダはえ〜と不満を垂れた。



「一箱くらい頂戴よー」

「イヤだね」

「じゃあチュウしちゃう♪」



そう言って再び抱きこうとするレジウィーダを止めたのは、意外にもリグレットだった。


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