A requiem to give to you
- The white departure(3/11) -


名前を呼ばれ、夢現にあった意識が浮上してくる。



「……起きましたか」



ゆっくりと目を開けると、そこにはディストがいた。何故か右頬を赤く腫らしており、何とも言えない表情でレジウィーダの顔を覗き込んでいた。



「……ここは、あたしの部屋?」



どうやらあの後意識を失って倒れたらしい。何故ディストが怪我をしているのかはやはりわからなかったが、恐らく彼が自分をここまで運んでくれたのだろう。



「ディスっちゃん」

「なんですか」



パタンと持っていた自鳴琴を閉じながら返事をするディストに訊いてみた。



「その顔、どったの?」

「……貴女を運んでいる時に右ストレートが飛んできました」



なんでだよ……とも思ったが、直ぐにある可能性に思い立ち、恐る恐る言った。



「もしかして……あたし?」

「いえ、グレイです」

「………へ?」



予想外の人物の名前にレジウィーダは思わず呆けてしまった。するとディストは簡潔に説明をした。



「『ショタの次はロリに目覚めたかコノヤロウー!!』と言って突然殴り掛かられたんですよ」

「あたしはロリじゃねーよ。……ってか、ディスっちゃんってショタコンだったの?」

「そんな訳ないでしょうが!!」



ピシャリと全力で否定された。正直、頷いたら頷いたで非常に困るのだが。ディストはゴホン、と一つ大きな咳払いをすると「それよりも」と言った。



「先程はすみませんでした」

「? どうしたんだ、急に」

「いえ……自分の話にばかりに夢中になっていて、貴女の容態に気が付きませんでした」



そう言って謝罪をするディストにレジウィーダは視線を泳がせながら頬を掻いた。



「いやー……それは別にディスっちゃんのせいと言う訳じゃなくてだね……自分のせいって言うか……」



確かに彼から話を聞き始めた辺りから頭が痛くなったのは事実だ。けれどそれでも知りたいと思ったのは誰でもないレジウィーダ自身なのだ。



(……けど、)



結局その話の大半は記憶に残ってはいなかった。正直なところ、彼に何故フィリアムの事を造ったのかを訊いたところ辺りまでしか覚えていない。



(これじゃあ、堂々巡りじゃんか……)



意味ねー、と落ち込んでいると不意にディストが声を上げた。



「そう言えば……」

「肝心な事を貴女に言っていませんでしたね」



肝心な事?と鸚鵡返しに訊けば、彼は頷いた。



「貴女からの質問の答えです」

「何で今更フィリアムを造ったか、だっけ?」

「えぇ、………って、貴女から振ってきた質問でしょうが」



呆れたように返され、レジウィーダは苦笑を禁じ得なかった。



「あぁ、うん……そうなんだけどねー」

「はぁ……まぁ、良いです。それで今になってフィリアムを造った訳ですが」

「うん」

「タイムカプセルです」











………………














「What’s?」



たっぷりと間を空けてから一言そう返した。と言うか、それしか返しようがなかった。そんなレジウィーダの様子を気にする事なくディストは続けた。



「去年の秋頃ですかね。訳あって久し振りに故郷であるケテルブルクに戻った時です」

「ケテルブルク……」



ふと雪国、と言う単語が浮かんではぼんやりと消えていった。



「そこの知事をしているネフリーに偶然見つかっ………再会したのですよ」



何だか妙な言葉が聞こえたような気がするが、取り敢えずは気にしないでおこう。レジウィーダはそう思うとディストに続きを促した。


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