A requiem to give to you
- たゆたう心(6/7) -



「ディスっちゃん……






















また随分と香ばしくなったね」

「貴女のせいですよ!!」



間髪入れずにディストは突っ込んだ。それにレジウィーダは訳が分からずに目を白黒させた。



「え、なんで?」

「貴女が突然大声を出すから、譜業整備の手元が狂って誤作動のまま爆発を起こしたんですよ!」



お陰で美しい顔が台無しです、と憤慨するディストの言葉に漸く先程の爆発がそれだった事に思い当たり、謝罪した。



「そ、そうだったんだ……なんか、ごめん」

「そう思っているのなら、もう少しその有り余る元気を他に役立てて下さい。…………………まったく、本当に貴女はあの頃から変わりませんね」

「え?」



最後にボソリと呟かれた言葉が聞き取れずにもう一度と聞き返せば、ディストはそれには答えずに「それよりも」と言って己のポケットに手を入れた。



「大切な物なら、もっとしっかりと管理をしていなさい」



そう言って手渡して来た物を見て、レジウィーダは目を大きく見開いた。



「コレ……あたしの自鳴琴!」

「貴女が通って行った後に落ちていたのを拾ったんですよ」



やれやれ、肩を竦ませるディストに構わずレジウィーダはあまりの嬉しさから彼の両手を取って笑った。



「ありがとう! 本当にありがとうディスっちゃん!!」



レジウィーダの予想外の行動に今度はディストが目を瞬かせた。



「……本当に大切なんですね、それ」



レジウィーダは大きく頷いた。



「うん。何故かはわからないんだけど、昔からずっと持ってる物なんだ」

「何故かはわからない??」



ディストは自鳴琴を大事そうに撫でながら言う彼女の言葉に思わず眉を寄せた。



「それは昔、大切な人からもらった物だと言っていたではありませんか」



それに自鳴琴を撫でていたレジウィーダの動きがピタリと止まった。



「それ、あたしが言ってたの?」

「そうですよ」

「いつ……?」



いつの間にかその声は震えていた。ズキリ、とまるで聞いてはいけないとでも言うかのように頭痛が走ったが、それでもレジウィーダは目の前の銀の男の口から告げられるであろう答えを求めた。



「そうですね…………私が子供の頃ですから、大体二十年程前でしょうか」

「二十年…………」



普通だったら信じないだろう。ディストが子供の頃だと言うのなら、明らかに彼よりも年下のレジウィーダが生まれてなどいないのだ。しかし、時空を超えると言う体験をした事のある彼女だからこそ、その話は有り得なくはないモノだと言う事がわかる。

レジウィーダは自鳴琴を見下ろす。彼が言うには大切な人からもらった物だと、自らが宣ったと言うそれを開けば、優しい……けれどどこか寂しげな旋律が流れる。



「あたしは……」

「常々訊こうと思っていたのですが、」



レジウィーダの呟きに被せるように、ディストは眼鏡のブリッジを押し上げながら口を開いた。



「レジウィーダ……いえ、宙。貴女は"あの事件"を覚えていないのですか?」

「あの事件?」



あの事件とはどの事件か。恐らくその二十年以上前の事なのだろうが、やはりレジウィーダには全く覚えがなかった。



「ごめん、わからない」

「そうですか……」

「でもさ、ディスト」



些か落ち込んでいるような様子を見せたディストにレジウィーダは訊いてみた。



「今、君はあたしを宙と呼んだよね。……どうして、あたしが宙だと言い切れたの?」


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