いきなりの事に驚いて扉を振り返ると同時にお腹の辺りに衝撃が走った。
「うわっ…………と、アリエッタ??」
ビクリと肩を震わせながらも椅子から落ちないようにテーブルに掴まり下を見ると、アリエッタがしがみついていた。
「レジウィーダ聞いて! シンクが………シンクが!!」
「! シンクがどうかしたのか!?」
彼は確かアッシュと共に任務へと出ている筈。アリエッタのこの慌てようは、もしかしたら彼に何かあったのかも知れない。そう思い問い掛けると────
「シンクが………
アリエッタのおやつ食べちゃったぁあっ!!」
ガタンッ
アリエッタを抱えたまま思わず椅子から転げ落ちてしまった。それと同時に呆れたような声が聞こえてきた。
「その辺に置いておくのが悪いんだよ………って、何してる訳?」
「いや、何か……ね。平和だなーって」
「平和じゃない! アリエッタのおやつー!!」
わぁーん、と仕舞いには泣き出したアリエッタをよしよしと宥めると、起き上がってテーブルの上にまだ残っているお菓子を取って差し出した。
「ほら、おやつならここに一杯あるから泣き止んで」
「……貰っても良いの?」
「もち」
別にあたしのじゃないし、シンクじゃないけど……放置して行った方が悪い。そう言って手渡すと、アリエッタは不思議そうに首を傾げるも直ぐにパッと嬉しそうに笑った。
「ありがとう!」
「いえいえー。シンクもどう…………って、もう食べてるね」
言う前から既にお菓子を頬張るシンクを見て思わず苦笑が漏れる。そして「あ、」とレジウィーダは思い出したように言った。
「シンク」
「何?」
「お帰り」
そう言って笑うとシンクは途端にそっぽを向いてしまった。しかし直ぐにボソボソと小さな声で「……ただいま」と返事が返ってきた。彼を含め、任務から帰ってくる人達をこうして迎えるのはある意味レジウィーダの日課の一つとなっていた。それは親好を深めるのは勿論の事、帰ってくる彼らを暖かく迎える事で少しでも彼らの心を安らげてあげたかったのだ。その成果も相まってか、フィリアム同様実の弟の様に可愛がっているシンクも、今ではこうして返事をくれるようになった。
「今回の任務はどうだった?」
それにシンクはお菓子を食べていた手をピタリと止め、少し考えてから言った。
「なかなか面白かったよ」
「面白かった?」
任務に面白いも何もあるのだろうか。しかも彼らが行ってきた任務は確か人身売買を行っている集団の捕縛だった筈だが……。
「変な奴等がいただけだよ」
そんなレジウィーダの考えを見越したのか、シンクはそう言ってククッと笑うと再びお菓子を頬張った。
「そうなんだー。まぁ、大した怪我が無いようなら何でも良いんだけどね」
苦笑しながらおやつに夢中なアリエッタを膝に乗せる。そのまま自らもお菓子を食べようとテーブルに手を伸ばしたその時、誰かが部屋に入ってきた。
「レジウィーダー。あの馬鹿まだそこにいるかいって、言うかちょっと話が……………………」
あるんだけど、と言う言葉が出る前に部屋の様子を見て固まったクリフ。何故彼が動かなくなったのかがわからないレジウィーダはふと、彼の視線が一直線に彼女の膝上に乗っている存在へと向けられている事に気が付いた。
「アリエッタがどうかしたのか?」
不思議に思い問い掛けてみると、彼はビクリと肩を奮わせて、そのままゆっくりとした足取りでこちらに向かって歩き出した。
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