A requiem to give to you- 伸ばされた手(7/7) -
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「オラッ! さっさとしやがれ」
「そ、そんな無茶を言わないで下さい! ただでさえ重量オーバーなんですから…!」
「ンっとに、役に立たねーな。その自称天才とか抜かす頭は飾りか?」
「ムキィーーーーーー!! この美しく華麗で超超ちょー天才ディスト様を馬鹿にして! ……復讐日記に書いてやりますからね!」
「口を動かす暇があったら手を動かせ!!」
「ギャーーーーーーーーッ!!」
あれから陸也と少年はカイザーディストの残骸に涙するディストを逆に捕まえ、彼の座っていた椅子を乗っ取った。そして一先ず最初の爆発音から幾度となく響き渡る轟音のするザレッホ火山へ向かう事になった………のだが、
「遅せェ! もっと速く飛ばせねーのかよ!?」
「だからこれは元は一人用なんですってば! 三人じゃ無理です!」
「不可能を可能にするのが天才科学者の務めだろうが!」
さっきからこの調子である。非情にスローペースで漸く先程までいた湧水洞を抜けると、銀色の月が顔を出した。
少年は月を見ながら思った。
(何で……)
何で自分はあの手を取ったのだろう。それをいくら考えたところで今の少年に答えは出なかった。
「ところでお前さ」
ディストと言い争っていた陸也が横から話し掛けてきた。
「名前ってあるのか?」
「名前……?」
ふと、一瞬だけある一つの名が少年の脳裏に過ったが、それはあくまで少年の被験者の名前であって少年自身の名前とは言い難い。それに陸也が被験者を知っている以上その名前を使うわけにもいかず、少年は困ったように首を横に振った。
すると陸也は途端に閃いたように声を上げた。
「じゃあ、フィリアムなんてどうだ? お前の名前」
「フィリアム……」
少年が復唱すると陸也は頷いた。
「そ……まぁ、殆ど勢いで出てきた名前だけど、悪くはねーだろ?」
フィリアム……
(俺の……俺だけの、名前……)
少年……フィリアムは心の中で何度も己の名を繰り返した。そうしている内に三人はザレッホ火山の火口付近まで来ていた。
椅子が地面に停止すると、陸也は椅子から降りて火口を除き込んだ。下の方では鉄をドロドロに溶かしたような真っ赤な溶岩が流れている。
「落ちたら一堪りもねーな」
「そう思うのでしたらもう少し火口から離れてはどうですか?」
ディストに制服の襟を軽く引かれ、「わかってるよ」と言って火口から離れ、奥へと続く道を歩き出した。その後を椅子に乗っているディストとフィリアムも追い掛ける。その間にも時々あの謎の轟音や爆発音が奥から聞こえてくる。
一体この奥で今何が起こっているのだろうか。
大きな好奇心と小さな不安を持って先へと進んでいくと、やがて大きな岩のある場所に出た。岩に刻まれた文字やら、その直ぐ側にある光る床、橋を渡った向こうに見える檻など色々と気になる所だが、今はそれ以上に陸也達の気を引いた光景が眼前に広がっていた。
「これは………一体」
後から来たディストの驚きの声が聞こえた。どうやら彼にとっても、この事態は予想外だったらしい。
(ま、そりゃそうだよな…)
陸也は辺りの現状を見渡した。辺りには何かを運んでいたであろう押し車らしき物が木っ端微塵に粉砕されており、その直ぐ側に白衣を着た研究者らしき人間が二人倒れている(見た所、気を失ってはいるが命に別状はなさそうだった)
そして中心部では、恐らくこの状況を作り出したと思われる人物らが対峙していた。片方は法衣を纏った剣士らしき男。もう片方は一人の少年を抱えた少女だった。……問題はその少女だ。
そう、その少女とは……
今日会う筈だった幼馴染みの一人、日谷 宙だった。
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