A requiem to give to you- 開花の兆し・後編(10/12) -
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ヴァンは目の前の状況に目を丸くしていた。
「これは一体……」
大の男数人を縛り上げて優々と勝ち誇る子供が多数と、その様子に苦笑する青年が一人。とても奇妙な光景だった。
一人の少年がヴァンに気付く。途端にその少年は不機嫌そうに口許を歪めると腕を組んで口を開いた。
「ちょっとヴァン、今頃来たの? 遅いんだけど」
「あ、あぁ……すまない。少ししつこい敵に手間取っていてな」
ふーん、と言いつつも納得していないのは声を聞いてわかった。そんな彼に苦笑していると今度はヒースが言った。
「そうか、君は神託の盾騎士団の者だったんだね」
「………まあね」
「なんだ、シンク。素性を明かしてなかったのか」
ヴァンが言うと、深緑髪の少年……シンクは「別に」とそっぽを向いた。
「言う必要性はないと思った」
「なんだよそれ! 感じ悪いなぁ、お前!」
「でも、彼の言う事も確かだと思うわよ」
憤慨する茶髪の少年を宥めるように肩に手を置いたタリスはシンクを見て続けた。
「任務で来ていたのでしょう? なら、正体もわからないような人間に易々と自分の身元を明かすような真似は出来ない。況してやそれなりの地位の人なら尚更……ね」
「ほう……タリス、何故そう思ったのだ?」
感心したようにヴァンが問うと、タリスは髪を手で払いながら答えた。
「正直な所はただの勘です。後は彼の実力と貴方への態度、かしら」
「だが、たった少しの情報でそれだけ見抜ければ大したものだ」
「お褒めに預かり光栄ですわ」
フフッ、と小さく微笑むタリスと相変わらず探るように彼女を見るヴァンを詰まらなさそうに一瞥すると、シンクは懐から紙の束を取り出すとヴァンに押し付けた。
「どうでも良いけど、ボクはもう疲れたから先に帰るよ。アンタに言われてた情報も手に入れたしね」
「そうか。色々と苦労をかけたな」
「やめてよ、そんな似合わない事言うの。うすら寒くなるからさ………それじゃあね」
そう言うとシンクは手をヒラヒラと振って一人出口の方へと去っていった。
「随分と皮肉屋なのねぇ」
「口の悪さなら君も大概負けてないよ」
「何か言ったかしら?」
ボソリとヒースが呟いた言葉にタリスはニッコリと笑ってその足を踏みつけると苦しそうな呻き声が帰ってきた。ガイはそんな二人に苦笑を漏らしながらも、ヴァンの持つ紙の束が気になり訊いてみた。
「謡将、それは?」
「うむ……どうやら取引先のリストのようだ」
「じゃあ、それを辿れば……!」
「あぁ」
ガイの言葉に強く頷き、ヴァンは紙の束を仕舞った。
「行方不明の子供達の足取りがわかるかも知れん」
その言葉にタリス達は顔を見合わせて喜び、安堵したのだった。
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「痛ェ………ったく、何だったんだよ。さっきの風は」
グレイは頭を押さえながら体を起こす。こっそりとヴァンを追い掛けていたのは良かったが、突然吹いた嵐とも呼べる暴風によって飛んできた瓦礫に頭を強打し、ひっくり返ってしまった。
漸く治まって辺りを見渡してみれば、それは酷い光景だった。
「まるで台風の通り過ぎた跡だな、こりゃ」
そう愚痴りながらも立ち上がると、微かに聞こえてくる声の方に向かって歩き出す。誰の声とかはわからなかったが、少なくともあの下劣な男共ではないだろうと足を進めていると、額に強い衝撃を受け視界が反転した。
「うごぉっ!?」
ガンッと再び、今度は床に頭を強打し、頭を押さえて縮こまった。
「〜〜〜〜〜〜っ、」
「何やってんのさ、馬鹿」
聞き覚えのある声にグレイは漸く事態を理解する。
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