A requiem to give to you
- 開花の兆し・後編(9/12) -



「……………!」



フワリ、と小さく風が吹いた。それはとても弱い物だったが、ヒースを冷静にさせるには十分だった。



───ぼく達の"カケラ"がそこにある限り、ぼく達は君を助けるよ



カケラ……



「そうか………そう言う、事だったのか」



君達の伝えたかった事が、漸くわかったよ。そして楔を立ち切る方法も。それは………



「ヒース……?」



ふと視線を下げれば心配そうに見詰めて来た茶髪の少年がいた。それに「大丈夫」と頭を撫でて笑った。



「ちょっと、そこの彼を見ていてくれ」

「え? ま、待てよ……お前はどうするんだ!?」

「僕は……」



そこで一旦言葉を切ると、未だに奇妙な攻防戦が繰り広げられている戦場を見た。



「あそこの身勝手なお嬢様を連れ帰ってくる」



そう言って片手に先程深緑髪の少年に刺さっていた投げ斧を持つと駆け出した。



「ヒース!?」



タリスが驚いたように見てきたが、ヒースは構わず言った。



「約束ってのは二人以上の人間がいて初めて成り立つモノだ。そしてそれはまた、その約束をした複数の人間で果たすべきモノなんだよ」



いきなり説明口調で言葉を紡ぎ始めたヒースに訝しげな視線が送られるが、彼はニヤリと笑って続けた。



「約束の為に一人が動くなら、もう一人が動かない理由はないだろ?」

「でも貴方は……」

「どうと言ってもやるしかない、そう言ったのは君だ。まぁ、任せなって」



そう言うとヒースはタリスの制止の声も聞かずに敵陣の中心へと突っ込んで言った。



「ヒースっ、待ちなさい!!」

「何だてめェ、死にてェのか!?」

「馬鹿な奴だ!!」



ガハハッ、と男達は汚い笑いと共にヒースへと武器を降り下ろし、切り裂いた










………が、



ガシャンッ



「な…………!?」



鋭い刃が斬ったのは人の身体ではなく、黒い縁の眼鏡だった。それから直ぐにフッ、と彼らの間に風が吹く。そして背後から声が聞こえてきた。



「吹き飛んじまえ」



男達がその声に振り向こうとした時、物凄い突風が吹き荒れた。



「わっ!?」

「っ、」

「これは……!?」



嵐のように周りの物を巻き込みながら狭い通路を吹き抜けていく風。三人は飛ばされないように一生懸命近くの物にしがみ付きながら見ていた。

窓は割れ、壁に亀裂や穴を空けて男達を外へと放り出す。それは本当にあっと言う間で、全てが治まった時には三人と数名の敵のみとなっていた。



「ア、アニキィ〜〜」



一人が情けない声で大柄な体型をした男に話し掛けた。恐らくそいつがリーダーなのだろう。そしてアニキと呼ばれたリーダーは……



「うぐ、ぐぐ………てめェら…………













覚えてろぉおおおおおっ!!」



逃げ出した。



「えぇ!? アニキ、そりゃねーよ!!」



そう言って他の男達もバラバラになって逃げ出そうとしたが、それは叶わなかった。



「おっと、どこへ行くんだい?」



そう言って階段側から現れたガイが一人に剣を向け、



「このボクに一発噛ましといて逃げるとか、そんな事はしないよね?」



いつの間にか怪我を治していた深緑髪の少年がもう一人の前に立ちはだかり、



「まだ私、貴方達にはたーっぷりとお話ししたい事があるのよねぇ」



背後にただならぬオーラを背負い、柔らかな笑顔で見詰めるタリスと、ファイティングポーズを取る縫いぐるみが窓から逃げようとした一人を阻んだ。

そして………



「なぁ、」



先に逃げ出したリーダーの前にフッと姿を現したヒースはいつもの愛想のない表情で投げ斧をチラつかせて言った。



「コイツ(斧)の背で思いっきり殴ったら、それなりに痛いかな?」

「う…………」



静まり返っていた砦に、良い年した大人の情けない悲鳴が上がった。


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