A requiem to give to you
- 開花の兆し・後編(8/12) -



「あ………そんな、俺………」



ごめんっ、と泣きそうな声で小さく謝る茶髪の少年に深緑髪の少年は苦々しげに一つ舌を打った。



「いちいち泣かないで、くれる? ……これくらい、直ぐに……回復すれば……ぐっ」

「待て、今抜くから」

「もう逃がさんぞ! クソ餓鬼共がァ……死ねェッ!!」



通路を駆ける幾つもの足音と響く怒声に全員がそちらを振り返る。斧に手を掛けていたヒースは思わず背筋が冷えた。



(マズイ、今のこの状況じゃ……逃げられないっ!)



唯一戦える者は重傷を負ってしまった今、奴らを蹴散らす術はない。かと言って少年を担いで逃げ切れるとも思わないし、ガイはまだ地下だ。



「どうしたら……」

「どう、と言っても……やるしかないでしょう」



そう言ってタリスは三人の前に立ち、再会した時から何故かずっと持っていた縫いぐるみを抱き抱えた。



「こんな所で死んでいられないのよ、私達は」



帰るって決めてるの。皆で一緒に……あの場所に。



「その為にあの子達も探さなきゃいけないし、まだまだ覚える事だって沢山ある」



言葉を紡ぐ彼女の周りの空気が変わったのを感じた。



「いつまでも、他人ばかりに任せている場合じゃないのはわかっているわ」



だから……



「私も動くわ───」



タリスの足下に蒼く輝く譜陣が広がる。それと同時に言葉を紡いだ。



「氷結よ、我が命に応え敵を薙ぎ払え」

「ふざけるなこのアマァ!!」

「タリス!!」



直ぐに眼前まで迫った敵が武器を振り上げるのとヒースが叫んだのは同時だった。



「フリーズランサー!!」



その言葉と共に譜陣は弾け、幾つもの氷の刃となって飛んでいき敵を切り裂いた。しかし直ぐにまた次の敵が怒りに顔を真っ赤にして駆けてくる。



「力を貸して───!!」



言うが早く、タリスは縫いぐるみを敵に向けて投げた。敵の武器がそれに降り下ろされようとした時、信じられない事が起こった。



ガキンッ



「……………え」



思わず漏れた言葉。驚きに固まる面々。それもその筈だった。まさか……まさか今まさに切り裂かれようとした縫いぐるみが敵のその武器を受け止めるだなんて誰が思うだろうか。



「人形士【パペッター】……?」



深緑髪の少年がそう呟く。それにタリスは静かに首を横に振った。



「───ソウルコマンド」



タリスが一言そう言うと、武器を受け止めていた縫いぐるみは途端にそれを短い足で蹴り上げ、驚き隙が出来た相手に殴り掛かった。



「ぐはぁっ」



その柔らかいただの縫いぐるみの手足のどこにそんな力があるのか、殴られた敵は無様にも数メートル先まで飛んでいき、床に叩きつけられた。縫いぐるみはそれを気にする事はなく、新たな標的へと向かい飛び込んでいく。次々と殴り飛ばされていく男達に追い撃ちを掛けるようにタリスは譜術を放った。



「ヒース」



不意にタリスが名前を呼んだ。



「何してるの。早くその子達を連れて行きなさいよ」

「! 何言って………」



こんな中に君を一人で置いて行けと言うのか!?



「貴方トロいから、このままじゃ直ぐに捕まってしまうでしょう? 私が……私達が足止めしてるから、早く行きなさい」

「そんな事………」



出来る訳がない。それに彼女に何かあれば、アイツに顔向けが出来ない。……だがしかし、彼女が言う事もまた正しいのだ。

ヒースはギュッと掌を強く握った。



「僕は……また、護れないのか………」



また……あんな想いをしなければいけないのか………っ!!


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