A requiem to give to you- 開花の兆し・後編(7/12) -
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バンッ、と大きな音を立てて扉が開かれた。それと同時に深緑髪の少年は動き、入口に向かって飛び蹴りを繰り出した。
「ぐはっ」
蹴りは入ってこようとしていた男の顔面に命中し、後ろに控えていた何人かを巻き込んで後ろに吹っ飛ばした。
「カッケェー!!」
「言ってる場合か。取り敢えず逃げるぞ」
深緑髪の少年の勇姿に感激する茶髪の少年の手を引き、ヒースは先程タリスが投げてきた物……眼鏡を掛けながら走り出した。入口で倒れている男達が起き出そうとするのを阻止するように勢い良く踏み潰していくと、彼等からは妙な呻き声が聞こえたが気にしない事にする。
眼鏡を掛けた事でよりハッキリとした視界で辺りを見渡すと、深緑髪の少年は近くにある木製の机の上に重ねられている紙の束を懐に仕舞っていた。
「何してるの?」
タリスが問い掛けると、仮面から覗く口許を上げた。
「目的の物を拝借させてもらったのさ」
「そう………とにかく今は逃げましょう!」
タリスの言葉に頷き、再び駆け出そうとしたが────
「逃がすかぁッ!!」
「この餓鬼共ッ!!」
上へと繋がる唯一の階段から何人もの男達が降りてきた。それと同時に個室の入口で倒れていた男達も起き上がり、各々の武器を構える。
「これは……」
「結構ピンチかもねぇ♪」
「愉しそうに言わないでくれない?」
「ど、どうすんだよ!?」
狭い地下で武器を持つ大人に挟まれた子供が四人。その内、戦闘経験がありまともに戦えるのが、自らを軍人と言った深緑髪の少年一人だけだった。
まさに万事休すとも言えるその時、上の方で悲鳴が上がった。
「なっ、どうし…………ぐわぁっ!?」
驚きに振り返った男達の上を走り抜け、一人の人物が降り立った。その者は固い地面に着地すると同時にその白い歯を輝かせて爽やかに笑った。
「よっ、無事かい? お二人さん」
「ガイ!!」
「ガイさん!!」
金髪を揺らしてポーズまで華麗に決めたガイにタリスとヒースは同時に声を上げた。
「こっちは俺に任せて先に行け!」
「──! 待って下さい。一人じゃいくらなんでも危険だ!!」
「大丈夫さ」
心配を露にするヒースの言葉にガイは軽く笑うと個室の入口にいる敵に持っていた片刃の剣で斬りかかった。
「でも……」
「ヒース、ここはガイを信じましょう!!」
言うが早くタリスがヒースの腕を掴んで階段に向かう。深緑髪の少年は素早く気を高め、詠唱を始めた。
「大気の刃で切り裂け─────タービュランス!!」
放たれた譜術によって目の前の敵を吹き飛ばし、拓いた道を一気に駆け上がった。
「出口はどこかしら?」
「…………あっちだ」
辺りを見渡すタリスにヒースはある一点を指差して返した。
「風が吹いてる。だから外は……向こうだ」
「風……?」
「そんなの吹いてないぞ?」
「………成る程ね」
首を傾げて訝しげにヒースを見る二人と対称的に、深緑髪の少年は納得したようだった。
「アンタって物凄く音素の流れに敏感なんだ」
「そうみたいだな」
「まぁ、とにかくあっちに出口があるんだろ? だったら早く出よ────」
茶髪の少年の言葉を遮るようにして何かが飛んできた。薄暗い中で見えたソレに深緑髪の少年は咄嗟の判断で茶髪の少年を押し飛ばした。
ザシュッ
「っ、……ぐっ」
「大丈夫か!?」
茶髪の少年を庇った彼の肩には銀色の投げ斧が深々と刺さっていた。ヒースは直ぐ様駆け寄り、茶髪の少年は顔面を蒼白にして震えた。
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