A requiem to give to you
- 開花の兆し・後編(6/12) -



「それよりもアッシュ。シンクとはまだ合流していないのか?」



いやだァ、ふざけんなこのハゲェ、パイナップル侍ィィイ等と悪態を吐くグレイを悉くスルーしてヴァンが問うと、アッシュは苦虫を噛み潰したような顔をして頷いた。



「ああ、先程からずっと探しているが………牢屋はおろか、子供達が監禁されている部屋すら見当たらない」



あまり考えたくはないが、もしかしたら最悪の事態になっているかも知れない。そうアッシュが言えばヴァンは「それはないだろう」とその考えを否定した。



「もし、やむを得ない事態に遭ったならば相手を殺してでも脱け出す様に言ってある」



確かに相手は人数はいるものの、大して強くはない。シンク程の実力者ならば、この位脱け出すのは容易だろう。

だとしたら彼は今一体どこにいるのだろうか。探す場所は粗方探した。もしかしたらもう既に脱け出しているのだろうか。



「実は地下とかあったりしてな」



いつの間にか話の中に入ってきていたグレイがそう口を挟む。そんな馬鹿な、とも言いたかったが、その線も捨て切れないのも事実だ。それはヴァンも考えていた事なのか、暫し顎に手を当てて思案すると頷いた。



「そうかも知れんな。……うむ、なら私はその地下へと続く通路を探すとしよう」

「なら俺達は……」

「お前達は先に戻れ」



え……、と二人の疑問を帯びた声が重なる。



「何でだよ?」

「実は今、訳あってファブレ家の使用人らと共に来ていてな」

「な………に……!?」



その言葉にアッシュは驚愕に目を見開いた。彼の脳裏に誰が映ったのかはグレイには知る由もなかった。……が、ふと先程のファブレ家の騒がしさを思い出して何となく納得した。



「例のお坊ちゃんとやらが拐われでもしたってか?」



アッシュが途端に殺気立ったのを感じながらもそう言うと、ヴァンは「いや、」と首を振った。



「拐われたのは最近入ったルークと同年代の使用人らしい。アレも珍しく入れ込んでいたみたいでな。その使用人と幼馴染みだと言うもう一人の使用人の外出許可を取らせたらしいのだ」

「ヘェ、大変だな」



さしてそうは思っていないような口調でそう言うと、ヴァンは珍しく疲れたように溜め息を吐いた。



「加えてガイまで着いて来てしまってな。今も向こうで探しているだろう」



だから戻らねばならん、とヴァンは言うが、グレイは一つだけ腑に落ちない事があった。



「それなら別にオレが行っても構わなくね? 元々邸で会う事になってたんだし」

「ああ、そうなんだが……少し、勝手が変わってきてな」



歯切れが悪そうに顔を顰めるヴァンにグレイは詰まらなさそうに見ると踵を返した。



「わーったよ、そんなに言うならさっさと戻るぜ」

「悪いな」

「その代わり始末書はな……」

「それは駄目だ」



キッパリと言い切ると、ヴァンはフッと笑って元来た道を戻っていった。



「……………」

「自業自得だ。馬鹿」



呆然とヴァンを見送るグレイにそう言うとアッシュも踵を返した……が、しかし途端に聞こえてきた笑い声に再び声の主を訝しげに見た。



「ククッ、駄目と言われりゃ逆らってみたくなるのが人の性ってねェ」

「オイ、お前まさか………待てっ!!」



アッシュの制止を無視し、グレイは猛ダッシュでヴァンの後を追い掛けて行ってしまった。



「……ったく、後で絞られてもしらねぇかんな」



ガシガシと紅い髪を掻きながら、アッシュは深い溜め息を吐いた。


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