A requiem to give to you- 開花の兆し・後編(4/12) -
「………とは言っても、ここ最近の僕らは喧嘩の止め役ばっかりだけどね」
「どう言う事だ?」
茶髪の少年が問うと、タリスが答える。
「あとの二人がねぇ……」
子供と言うか、お馬鹿と言うか。
「いつまで経っても下らない事で喧嘩して周りに迷惑をかける様な幼馴染みも居てね、まだ4人一緒にいた時はよく制裁をしていたモノだわ」
ホホホ、と笑うタリスに茶髪の少年は青褪め、ヒースは頭を抱えて溜め息を吐いた。しかし深緑髪の少年はタリスの言葉に引っ掛かりを感じていた。
「まだ一緒にいた時って事は、今は一緒じゃないって事か?」
それにピタリ、と二人の動きが止まった。茶髪の少年も言葉の意味に気付き、「そう言えば……」と二人を見た。
「今は、ね」
「訳あって今は一緒にはいない。どこにいるのかも、生きているのかすらもわからない。……でも」
ポツリと呟いたタリスにヒースが続けて言うと、二人は顔を見合わせてから微かに笑った。
「絶対に探し出して、必ず皆で帰るって決めたの」
「だからその為に、僕達もそろそろ本気で覚悟を決めるべきなのかも知れないな」
そう言った二人の顔を見た深緑髪の少年は仮面の下にある瞳を大きく見開いた。こんな表情をする人達を彼は知っていた。煩わしくて、鬱陶しくて……でも、とても身近で暖かい彼の人らが稀に見せていたのを、彼は何度も見ていた。
(もしかして、コイツら………)
深緑髪の少年の脳裏にある一つの可能性が浮かび上がったその時、遠くから此方へと向かって来る足音が聞こえた。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
アッシュは剣を振り、眼前に迫る敵を薙ぎ払った。一人一人は大して強くはないが、やはり集団で掛かられては少々面倒だった。倒しても倒しても次々と増援が現れ、それは着実に彼の体力を奪いつつある。一体コイツらは何人いると言うのだろうか。
「オイ、グレイ! こいつァ、どうなってやがる!!」
堪らずアッシュが怒鳴ると、グレイは懐から次々とナイフを取り出しては投げ、面倒臭そうな顔をして言った。
「ンな事言われてもよ。オレは本来ならこの任務についてねーンだから知らねェよ」
大体、そっちこそ下調べとかしなかったのか?と問えば「煩ェッ」と理不尽な怒声が返ってきた。
「つーかてめぇ、何で武器がナイフなんだよ! 他に何かねぇのか!?」
「ない訳じゃねーけど、この格好じゃ動き辛くて無理」
いつもグレイが任務に行く時は小回りの利いた動きが出来るような、とても身軽な軽装だ。しかし今は元々がファブレ家なんて大貴族の邸に行く予定だった為、詠師服……とまではいかないが、それなりの正装で来ていた。大きく立ち回る動きに慣れた者ならともかく、暗器を使い隠密に動くのを得意とするグレイにとっては動き辛い事この上なかった。……かと言って、このままでは流石に敵を抑え切れるとも思っていない。どうするかと思案し始めた時、突然何者かに腕を引っ張られた。
「うわっ……!?」
「どうした!?」
小さな悲鳴にアッシュはまた一人敵を薙ぎ払うとグレイを振り返った。しかしそこにグレイは居らず、薄暗い空間に敵が数人。完全に囲まれていた。
「……冗談だろ」
思わず舌打ちが漏れた。敵はこれを見て好機と思ったのか、ニヤリと嫌な笑みを浮かべてにじり寄ってきた。
「ヒヒッ、後はお前だけのようだなァ」
「それに見ろよあの赤い髪。もしかしたらあのキムラスカ王家の縁者かも知れないぜ?」
「て、事は捕まえりゃ金になるかもな!」
途端に嬉々として自分を見ては野心に目を輝かせる相手にアッシュは吐き気がした。
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