A requiem to give to you- 開花の兆し・後編(3/12) -
「なぁ、もしその力と言うのが目覚めたら……僕は自由になれるか?」
事情を知らない人間から見たら実に可笑しな会話だろう。事実、茶髪の少年はずっと首を傾げているし、深緑髪の少年もやはりどこか探るようにしてこちらを見ている。だが例えどんな風に思われようとも、ヒースには自由に地を駆け回れる身体が欲しかった。不幸の事故で全身に鉛を背負い込んだかのような感覚から抜け出せず、更には碌に動けないのを良い事に散々な目に遭ってきた。そんな日常から解放されるのだと言うのなら、今すぐにでも目覚めさせたい。そんなヒースの気持ちを読み取ったのか、シルフは一瞬だけ黙り込むと空気を奮わせた。
『勿論、楔が解かれるからね!』
「楔?」
首を傾げながら鸚鵡(おうむ)返しに訊くと、頷く代わりに今度は軽く風を吹かした。
『覚えておいて、ヒース。ぼく達は君の味方だ。ぼく達の"カケラ"がそこにある限り、ぼく達は君を助けるよ』
「シルフ………ありがとう」
そう言って笑うとシルフは「いやいやとーんでもない♪」と返し、それに思わず一年前に生き別れになったままの幼馴染みを思い出した。
『それとね、ヒース。ぼくは君にとっても大事な事を伝えなきゃいけないんだ』
不意にそう言われて「何だ」と返すと、シルフは至って普通にとんでもない事を言った。
『たった今、上で急速に第五音素【フィフスフォニム】が集まってるみたいなんだけど…………
爆発するから気を付けてね♪』
そう宣うと部屋を多い尽くしていた第三音素は跡形もなく消えた。それから間もなくして盛大な爆発と共に天井が崩れてきたのだった。
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―――
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「………成程ねぇ」
一通り話を聞いたタリスは納得したように呟くと漸くヒースの上から降りた。ヒースは直ぐに立ち上がると首を鳴らした。
「まぁ、流石に天井の破片に混じって君が落ちてくるとは思わなかったけどね」
「私もまさか幽霊に案内された先の砦がこんなにまで下に広いとは思わなかったわねぇ」
ピタリ、とヒースの動きが止まった。
「………なんだって?」
うんうん、と一人頷くタリスに問い掛けると、彼女は一瞬だけ目を瞬かせるとニッコリと笑った。その笑みに嫌な予感がするのは決して気のせいではないだろう。
「だから、ユーレ「ピーピー、通信エラーが発生しましたー」」
聞きたくないとばかりにヒースは耳を塞いで妨害する。しかしそんな努力も虚しく、茶髪の少年が「幽霊と話せるのか!!」と純粋な好奇心に満ちた目をしながら大声で言っていた。
「何て言うか……アンタ達ってオカルト集団か何かなの?」
それともただのキチガイ?と言う言葉は呑み込み、深緑髪の少年は呆れたように二人に言う。
「心外だな。この子は兎も角、僕のはちゃんと実在するモノだ」
「あら、幽霊……霊魂だってちゃんと存在しているわよ。姿だって見えるし」
「それはきっと幻覚さ。ダメだよー薬なんてやったら…………イテッ」
「何か言ったかしら?」
何かを投げ付けながらタリスが微笑むと、ヒースは「何デモアリマセン」と首を振った。
「お前ら……仲良いな」
そんな二人を見て茶髪の少年が苦笑する。それにヒースは肩を竦めた。
「それこそ心外…………と、言いたい所だけど、まぁ幼馴染みだしな」
「仲が悪ければ今頃迎えになんて来ないわ」
そう言ってタリスも笑う。確かに自分達は昔から喧嘩が多い。口を開けば普通に相手を貶したり罵ったりするような汚い言葉もズバズバ出てくるし、手を上げれば男だろうが女だろうが関係なく殴り合いの一つや二つはする。大きくなって考え方も落ち着き少しは減ったかも知れないが、基本的に関係は変わっていない筈だ………………一部を除いて。
「でもまぁ、それだけ相手の事を信じてるって事だよ」
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