A requiem to give to you- 伸ばされた手(6/7) -
「ハーッハッハッハッハッ! そこのガキ共、よーくお聞きなさい。これこそが我が超天才ディスト様の開発した最新型万能譜業兵器・カイザーディストだ!!」
声高々に言うディストに反応するようにカイザーディストも両腕を振り上げた。そして、
「その二人を捕らえなさい!」
「「はぁ!?」」
カイザーディストは二人が素っ頓狂な声を上げている間にアームを伸ばして捕まえた。
「オイコラテメェ、放しやがれ!!」
「そうはいきません。折角あの人に会えるチャンスなのです。それをそう易々と逃して堪るものですか」
「だから無理だって何度言ったら……」
「ですが今は時間がありません。私と共にザレッホ火山まで来て頂きますよ!」
「ざけンなっ………って、聞いちゃいねェ!!」
陸也の叫びと共にカイザーディストは天辺のプロペラを回転させ、地面から離れた。それでも彼はアームを外そうとするが、流石に機械と生身の人間では力の差が歴然としていて、とても外せそうになかった。
「……チッ」
憎々しく舌打ちをしてアームを殴るが、やはりビクともしない。仕方なしに横目で同じくこの拘束から逃れようとしているであろう少年を見ると、彼は特に暴れるわけでもなくただ俯いていた。
「オイ、お前………良いのかよ」
「………え?」
何が、と言いたげな目で陸也を見る。それに彼はふて腐れた顔を明後日に向けながら言った。
「あのオッサンが言ってたろ。廃棄はしないが生かして研究するって」
「…………うん」
「さっきのアホみてーな例えは兎も角、このままならお前マジで二度と朝日を拝めなくなるかも知れねーぞ」
それでも良いのか。そう言われて少年は再び俯いた。
目覚めたばかりの頃に感じた嬉しさと懐かしさはまだ新しく、心に強く残っている。このまま大人しくしていれば、恐らく自分は監禁でもされ、彼の言う通り二度と外に出る事は出来ないかも知れない。
あの外へと駆け出した時の自由な感覚を二度と感じる事はないかも知れない。
「……ゃ、だ」
それだけは
「それだけは………嫌、だ……っ」
俺は………もっと、
「色んなモノを見たい。世界を知りたい……」
だから……
「! これはっ!?」
突然、少年の周りに集まり始めたエネルギーに気付いたディストは驚きに目を見開いて振り返った。辺りは水。そこに溢れる水の力を象徴するように、一本の青い光が少年を包むように陣を描いてゆく。
「止めなさい!!」
ディストは焦り静止の声を上げるが間に合わず、完成した陣は一層強い光を放ち……
大量の水と共に弾けた。
諸に水を被ったカイザーディストはショートして停止。そのまま落下した。
「わ、私のカイザーディストがぁあああっ!!」
そんなディストの絶叫と同時にカイザーディストは地面に叩き付けられ、バラバラに壊れた。上手くアームの拘束から逃れた陸也は床に座り込んでいる少年の前に立つ。
肩で息をしながらも少年はゆっくりと顔を上げると、温度のない表情で自分を見ている陸也と目が合った。
「………あ」
少年は思わずそんな声が漏れてしまった。しかし、
「良いンじゃねーの?」
「え……?」
言葉の意味がわからず、首を傾げる少年に陸也は手を差し伸べた。
「ほら、立てよ」
陸也はニッと口角を上げて笑った。それはどこか嬉しそうで、思わず心臓が高鳴った。
自分は彼のこの笑顔を、知っている……?
「見るンだろ。色んなモノを。知りたいンだろ、
世界をよ」
すっ、と伸ばされた手。その先にある優しい笑顔。
少年はどう言葉にして返せば良いのかわからなかった。
どうしてこの人は自分にこんな事をするのかわからなかった。
わからなかったけれど……
気が付けば、その手を取っていた。
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