A requiem to give to you
- 開花の兆し・前編(5/6) -


そんな彼を尻目にタリスは淡々と述べた。



「私が気付いた訳ではありません。この子達が教えてくれたんです」



そう言ってタリスは何もない空間を撫でるように手を置いた。それにヴァンは興味深そうに目を細めた。



「タリス、お前は霊視が出来るのか?」



ガイが「霊視?」と首を傾げるのを横にタリスはどこか困ったような顔をした後、小さく頷いた。



「ええ、まぁ。……尤も、そうなったのは最近ですが」



元々、そう言ったモノの気配を感じる事は出来た。しかし視る事はおろか、その声を聞く事も話す事も出来ない。本当にただそこに居ると言う事を感じていただけだった。しかしどう言う訳か、この世界に来てから少しずつ視えてくるようになり、ある時声を掛けられたのだ。



『"君は不思議な匂いがするね"』



……と。別に香水を付けているとか言う訳でもない。それは自分達を引き寄せる気のような物の事を指しているのだそうだ。それには何となく納得がいった。その時は特にそれらが多く自分の周りに集まっているような気がしていたから。そしてその時を皮切りに、タリスは俗に言う幽霊……"霊魂《ファントム》"達と話すようになったのだった。

ヴァン達に説明を終えたタリスは一つ息を吐いて目を閉じた。勿論、世界云々に関しては省いて説明をした。しかしヴァンは何かを考えるようにそんな彼女を見ていた。



「………………」

「ヴァン謡将?」



ガイが不思議に思ってヴァンに声を掛ける。ヴァンは小さく首を横に振ると歩き出した。



「大体はわかった。とにかく今は早く行くとしよう」



それにガイだけでなく、タリスも目を見開いて彼を見た。絶対に家に返されるか、何か小言を言われると思っていただけに拍子抜けだ。そんな二人に気付いたのか、ヴァンは苦笑を浮かべた。



「今更帰れとは言わん。その代わり、私も共に行くぞ」

「ヴァン謡将………ありがとうございます!」



タリスはパッと花が咲くように微笑むとヴァンの後ろに着いていった。



「結局こうなる訳ね………。まぁ、ヴァンがいるなら良いか」



ガイも苦笑混じりに頭を掻くと、念の為に後ろに気を付けながら二人の後を追い掛けた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







三人が砦の前まで来ると、近くに待機していた二人の神託の盾兵が近寄ってきた。



「グランツ謡将!」

「お待ちしておりました!」



兵士は敬礼をするとヴァンは頷いて返した。よく見ると二人は微妙に鎧の形が違っていた。それをマジマジと見ているとガイが所属する師団によって変わるのだと教えてくれた。



「作戦はどのようになっている?」



ヴァンが問い掛けると兵士達は一つ返事をして説明した。



「シンク参謀長の作戦では、まず自らが囮となり街へ出て奴らを誘き出すと言う物でした」

「そして参謀長自ら奴らに捕まり、我々はアジトまで尾行。その後アッシュ隊長含む数名で潜入し、残りは奴らが外へと逃げてきた時の為に待機、との事です」

「成る程………。して、お前達の中でシンクの素顔を見た者は居らんだろうな?」



ヴァンは納得したように頷き、続いて問い掛けると兵士達は予想外の質問に一瞬戸惑うと二人して首を振った。



「いえ、我々は見ていません」

「街中で扮していたようですが、アッシュ隊長以外は皆街の外で待機との事だったので……」

「そうか……」



ヴァンはどことなく安堵したように溜め息を吐くと漸くタリス達を振り返った。


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