A requiem to give to you
- 開花の兆し・前編(4/6) -


タリスは一旦足を止めて振り返った。



「ガイ、もうへばったの? 情けないわねぇ」



やれやれと肩を竦めるタリスにガイは項垂れた。



「そうじゃないだろー。何だって俺達はこんな所にいるんだよ」

「何って………決まってるじゃない」



そう、それは数時間前の事だ。

ファブレ邸を出たタリスは真っ先にミヤギと言う者の所へと向かった。人に聞きながらも辿り着いた道場にガイはいた。何かを真剣に話していたようだが、正直それ所ではなかったタリスは彼をかっ拐うようにして飛び出したのだった。

そして今に至る、のだが……



「いくらヒースを助ける為ったって、場所もわからないのにただ闇雲に進んだって意味がないだろ」

「意味なんかなくはないわ。それに闇雲に進んでいる訳でもないのよ」



はっきりと言い切ったそれにガイは「どう言う事だ」と訝しんだ。予想していたであろうその反応にタリスは冷静に前を見据えた。



「教えてくれている人達がいるから」

「え、教えてくれている……人、達……?」



同じ様に前を見てみるが、そこには鬱蒼と茂る緑が続くばかり。自分と目の前の少女以外にどこにも人影など見当たらなかった。



「あのさ、タリス」

「何かしら?」

「君は一体誰に何を教えてもらったんだい?」



ガイは背筋が寒くなる思いを感じながらもタリスに訪ねてみた。すると彼女は何でもない風にあっさりと返してきた。



「俗に言う"幽霊さん"達にヒースが連れて行かれた場所を案内してもらっているのよ」

「幽霊さん、達……?」



復唱すれば笑顔で大きく頷いた。



「今もいるのか、それ?」

「勿論、さっきからずーっと私達の周りにいるわよ」



ねぇ、と何もない空間に向けて言ったタリスの言葉に周りの草木がサワサワと揺れた。













…………………。













「すいませーん。俺、今ものすごーく帰りたいんですけどー?」



そう言ったガイは既に涙目だったが、タリスはバッサリと切り捨てた。



「駄目に決まってるじゃないv」

「可愛らしく言えば全て上手くいくと思うなよ」

「あら、連れないわねぇ。仮にも友達でしょう? 友達の友達が人成らざる者だったとしてもそこは空気を読んで妥協すべきよ」

「限度があるだろうが限度が!!」



友達の友達が幽霊だなんて聞いた事がない。



「大丈夫よ。別に悪意を持った子達じゃないから呪ったりしないわよ」

「そう言う問題じゃ……」



いつまでも煮え切らない様子のガイに痺れを切らしたのか、タリスは仕方なさ気に溜め息を吐いた。



「全くもう、これだからガイは」

「俺のせい!?」



そう訴えるもタリスはガイの言葉を無視して少し離れた所にある木に向かって言った。



「折角こっそりとストーキングしている所を申し訳ありませんが、怖がりなガイの為に出てきてはくれませんか?」

「別に俺は怖がってる訳じゃ…………って、え?」



誰に話し掛けるですかアナタは……って言うか、出てきてってどう言う………。

ガイがそんな事を思いながら固まっていると、突然木が笑い出した。……いや、正確には木の後ろにいた人物が、だが。



「これでも気配を殺していたつもりなのだがな。よく気付いたものだ」

「ヴァン、謡将……!?」



苦笑しながら出てきたヴァンにガイは目を大きく見開いて驚きの声を上げた。


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