A requiem to give to you
- 開花の兆し・前編(3/6) -


そこで今まで黙っていたヒースが一つ息を吐くと重たい口を開いた。



「とにかくこれ以上ここにいるのは危険だ。早く脱出しないといけないな……」

「早くって言ったってどうしたら良いんだよ! 縛られてるんだぞ!?」

「……貴方は?」



片や焦るように声を張り、片やもう一人いた事に驚いたように問い掛けてきた。そんな二人にヒースは声を潜める。



「僕の事は後だ。取り敢えず、この手を縛ってる物を取り払おう」



今も尚両手の自由を奪っている物は感触からして普通の縄だろう。ならば、



(何か切れるような物を探せば……最悪、床なり壁なりで擦り切ってでも…………)






パサ……───






「え………?」



突然、両手が自由になった。慌てて状況を確認しようと目隠しを取って見ると、目の前には深緑の髪をした少年がその顔に仮面を着けている姿が目に入った。



「君は一体………」

「一応、こっちも軍部に関わっている身なんでね」



声からして新しく来たばかりの方の少年なのだろうが、そこには先程までのどこか畏まった様子はなく、まるで悪戯が成功したかのように口許を上げていた。



「いつ如何なる時も護身用の武器は手放さないのさ」



カラン、と音を立てて少年が落としたのは変わった形のナイフだった。



「す……………スッゲーなお前カッケェよ!!」



そう言って目を輝かせているのは茶髪の小柄な少年。その身なりからやはりそれなりの家の子供のようだ。しかし思っていたよりも二人とも幼い。歳はどちらも12、3歳くらいだろうか。



(いや、それよりも……)



ヒースは部屋を見渡した。部屋に窓はなく、天井床壁共に石で出来ており、格子の付いた覗き穴がある鉄の扉が一つ。そこから外を覗いてみると、やはり窓のない部屋に上へと続く階段があった。



「地下だったのか……」



ならあの風はどこから、と呟くと少年達は首を傾げた。



「風?」

「ああ、さっき風が吹いていたんだ」

「でも、ここはどう見たって地下だぜ? 入口の所からって言っても無理があるだろ」



きっと気のせいだよ、と言うように肩を竦める茶髪の少年。しかし深緑髪の少年は何かを考えているようだった。



「ふーん、成る程ね………」



どうやら何かわかったらしい。深緑髪の少年は一人頷いて辺りを見渡した。それにヒースは問い掛ける。



「何がわかったんだ?」

「この部屋、かなり濃い第三音素【サードフォニム】で溢れてるよ」

「第三音素……」



それは確か風や雷の属性を持つ音素だったか。しかし何故そんな物がこのような地下に溜まっているのだろうか。



(! ……まさか)



ヒースはハッとしてもう一度辺りを見渡す。もし、あの時屋敷で吹いた風と自分にだけ聞こえたあの声が関係あるのだとすれば……



「僕に声を掛けてきたのは、第三音素(きみ)だったのかい……?」



そう呟いた時、空気が嬉しそうに震えた気がした。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







バチカルより少し離れた森の中、草木を掻き分け道なき道を進み続ける二人の男女がいた。暫くは何も言わずにただ進んでいるだけだったが、どんどん奥に進み暗くなっていくにつれて男の方の不安が募っていく。一方、女はそんな男性に気付く事なく導かれるように先へと進んでいた。



「タリス〜、ちょ………ちょっと待ってくれよ!」



ついに男……ガイは口を開いて先に行くタリスに声を掛けた。


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