A requiem to give to you
- 追憶と夢想(4/5) -



「今のは…………?」



突然頭の中に流れてきた様々な見覚えのない映像にフィリアムは額に手を当てて頭を振った。そのままレジウィーダの方を見ると、顔を蒼白にして呆然と座り込んでいた。



「姉貴……? オイ、姉貴!!」

「、あ……ごめん」



もう大丈夫だから、と笑うが誰がどう見ても大丈夫なようには見えなかった。



「やっぱ、ちょっと調子悪いみたい。部屋に帰るわ」



そう言って立ち上がるとフィリアムが何かを言う前に走り去っていった。



「………………」



残されたフィリアムもまたそれを追う事をせず、暫く混乱した頭を落ち着かせる為ベンチに座り直して目を閉じた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







一体何だったのだろうか。

覚えのない友の言葉。見た事のない彼らの表情。そして……見た事のない、人達。

見た事がない、だけど彼らは確かに自分に向けて言っていた。そしてその中に見た事はないけれど、覚えのある顔がいくつかあった。



「あれってディスト………いや、違うよね」



出来れば違っていてほしい……が、何故かそう思えないのが不思議だ。



(それに最後のアレは………)



そこまで考えた時に突如頭痛がした。



「、つー………っとに何なんだよ急に」



まるで思い出すなとでも言われているかのように彼らの顔がぼやけていく。頭を押さえながら漸く帰ってきた教会の壁に手を着く。入口の警備兵が心配そうに声を掛けてきたが小さく笑って「お気になさらずー」と言う。

近くの時計を見ればとうに休憩時間は過ぎていて、そろそろまた新しく来ているであろう書類を片付けなければならない。



「あー……面倒臭いー」



まるでどっかのバカ男のような台詞だと思いながらも重たい足取りで教会内へと入る。
……と、その時にふと目に入ったのは『清掃中』と掛けられた図書館への扉だった。



「………………」



引き寄せられるように扉に近付き、周りに気付かれないようにそっと開けて体を滑り込ませる。中に入り、ここで隠れて時間を潰そうと思っていたレジウィーダは清掃している筈の用務員の姿がないのを疑問に思いつつも奥に進み休めそうな所を探した。そしてすぐに丁度本の山があり身が隠れそうな場所を見付けた時に、後ろから声が聞こえた。



「あ、ホントに来た」

「!!?」



気配も何もなく突然した声にレジウィーダは驚きを隠せずに後ろを振り向くと、そこには目深にフードを被った少年がこちらを見ていた。



「ど、どちらさんで……?」



一応警戒しながらも問い掛けると少年は口許を軽く上げた。



「私はクリフ。つい最近まで旅をしていた心優しーい譜術士【フォニマー】さ」



そう言って手を差し出してきたのだが、レジウィーダの視線は自然と彼の反対側の手に持つ本(『上手な人の縛り方 〜上級編〜』)にいっていた。



「心優しいってなんだっけ……」



思わず呟いてしまった言葉にクリフは口許を上げたまま首を傾げる。

正直可愛い。顔下半分しか見えてないがその仕草は本当に可愛らしいと思う。……しかし油断したら最後、痛い目を見るのは火を見るより明らかだった。

どうしたものかと迷っていると、クリフは手を引っ込めて近くのテーブルに突っ伏している人らしき物を揺さぶった。



「ねぇ、ちょっと起きなよ。あの子が来たよ」



その言い方はまるで自分が彼らの元に来るのがわかっていたかのようだった。それに再び警戒を露にするレジウィーダを余所にクリフに揺さぶられている人物は背中まである金髪をガシガシと掻きながら顔を上げた。


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