A requiem to give to you
- 交わらない旋律(3/4) -



黙り込んでしまったタリスからルークへと目を移したヴァンは申し訳なさそうに口を開いた。



「そう言う訳ですまないな。今日は私から剣の指導が出来ん」

「はい………」



複雑な色を見せるルークの頭にポンと一つ手を置いた。



「そんな顔をするな。代わりと言っては何だが、今日は特別に………」

「グランツ謡将」



最後まで言い切る前に誰かの声に遮られた。そのまま皆で声のした方を見れば、そこにはフィーナが立っていた。



「フィーナか、久しいな」



その言葉にフィーナも「そうですね」と頷く。そして途端にそれは苦笑へと変わり、ヴァンに一枚の紙を差し出した。



「今し方、玄関のお掃除に行ったらこんな物が門に貼ってありましたわ」



どうやら謡将宛てのようなのでお渡ししますね、と言われて受け取った紙を見ると、



『待つの飽きた。面白いモン見付けたから行ってくるゼ☆ By.グレイ〜』














………………。















「………ヴ、ヴァン師匠?」



急に黙り込んだまま動かなくなった己の師にルークが恐る恐る訊くと、ヴァンは弾かれたように玄関へと向かった。それに慌ててルークとフィーナも追いかけると、誰も居ない門の前でヴァンが紙を握り潰している光景が目に入った。



「なぁ、フィーナ。師匠……怒ってるよな?」

「どうやら部下の方でもいらしたのかも知れないですね」

「じゃあ、もしかしてそいつも攫われちまったのか?」



それにフィーナは首を横に振った。



「いえ、どうにもその方は待っているのに嫌気が差してどこかへ行ってしまったようです」

「な、なんだそりゃ……つーか、師匠の部下なのに何命令無視してんだよそいつ」



マジ有り得ねぇ……と、ルークがぼやくのが耳に入ったのか、突然ヴァンが振り向いた。



「ルーク」

「は、はいっ」



怒られる、と内心焦るルークだったが、予想に反してヴァンは意外にも苦笑していた。



「すまない。本当は私の代わりに今日共に連れてきた者を稽古の相手にさせようと思ったのだが……」

「ぜ、全然良いって! だって俺、師匠以外の人から教わるの嫌だし……」

「フッ、そうか」



そう言って笑ったヴァンの表情は自分のよく知るいつもの優しい父のようなもので、ルークはそっと安堵した。



「それより師匠! ヒースの事お願いします」



その言葉が意外だったのか、ヴァンは一瞬だけ目を瞠ったが、直ぐにしっかりと頷いて踵を返し邸を後にした。



「………………」



そんなヴァンの背を見送ったルークは視線はそのままに後ろにいるフィーナを呼んだ。



「フィーナ」

「はい、なんでしょうか?」

「ガイって今日、休みだったよな」

「そうですね。恐らく今はミヤギさんの所にいると思いますわ」



ミヤギさんって誰だ、と思いつつもルークは一つ頷くと頭の後ろに手を組んで言った。



「あーあ、師匠は任務だしガイも休み。稽古にしても勉強にしても相手がいねーんじゃどうにもならないっつーの」

「そうですね」

「早く終わって皆帰って来いよなー。一人で待つほど退屈な事ってないんだからな!」



言い終えると同時にバタン、と閉まった玄関の扉を一瞥してルークは溜め息を吐いた。



「よろしいのですか?」

「………………フン」



フィーナの問いにルークは何も答えず、そのままそっぽを向くと歩き出した。数歩歩いて、一度だけ扉を振り返った。彼女が邸を出る瞬間に小さく呟かれた言葉を思い出し、ルークはむず痒くなる思いを隠すように早足でその場を去った。















『ありがとう、ルーク』






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