A requiem to give to you
- 伸ばされた手(4/7) -



緑の少年は天を仰いだ。その目に写るのは藍色の空とそこに散らばる無数の光の粒。

つい先方、自分と同じ顔をした子供が下に消え、二つ息をする間にあの空へと昇っていった。その間にまたひとり、下に消える。



「……ったく、嫌な仕事だよな」



唐突にそんな声が聞こえた。すると今度は目の前に白衣を着た男が二人現れた。



「本当にな。総長も大詠師も何でこんな面倒な事をやらすんだか」

「でも、確かにこんなのがたくさんいても気持ちが悪いけどな」

「おいおい、仮にも導師様の"なりそこない"だぜ? 気持ち悪いはないだろうが」

「なりそこないだからこそ、処分するんだろ。それにこいつら以外誰もいないんだ。さっさと処分しちまえば問題ないさ」

「それもそうだ」



男達は笑ながらまたひとり、下へと投げ込んだ。残りはあと少年を入れて二人。

少年はもうひとりの緑を見た。その目は虚ろで、この状況下に泣きもしなければ怒りもせず、ただ無表情にどこか遠くを見ていた。そしてそれは自分にも言えることだった。怒りもなければ、悲しみもない。しかし何処となく胸の奥が妙な感じがして気持ち悪かった。



「さぁ、次いくぞ」



そんな声と共に体が浮かんだ。男達に持ち上げられたのだと直ぐにわかった。下を見ると、空とは対照的な明るい朱が広がっていて、耳には男達の掛け声が入ってくる。

そして……

















体が宙を舞った。

一瞬だけ先程の緑と目が合った気がしたが、直ぐに見えなくなった。背中に感じる熱気がだんだんと近付いてくる。このままでは自分も他の緑達と同じ様に消え、あの空へ逝くだろう。

緑の少年はもう一度天を仰いだ。藍色の空に散らばる無数の光。その中に一つだけ、先程はなかったより強く輝くモノを見付けた……ような気がした。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「……成る程な」



粗方ディストから話を聞いた陸也は暫く俯いて黙り込んでいたが、ふと顔を上げると納得したようにそう呟いた。

ディストの話では、過去に親しかったある人達を生き返らせようとしていたらしい。今回はその中でも特に親しかった女の子をフォミクリーの技術を用いてレプリカとして作ろうとしていた。話をする間のディストの様子から、その子が彼にとってどれ程大きな存在であったかはよくわかったし、痛い程伝わってきた。

問題のその人と自分の知るアイツが同一人物かどうかと言われれば…………間違いなく同じだろう。彼からアイツに纏わるアイツにしかまず有り得ないある一言を聞いてしまったからには、そう確信せざるを負えなくなってしまった。

しかし……



「もし仮にそいつに会えたとして、そうなったらこいつはどうなるんだ?」



陸也は不安な表情で二人を見ている少年を指差した。



「あんたの都合で勝手に造られて、いらなくなったら廃棄でもすンのか?」

「廃、棄……」



廃棄と言う言葉に少年は顔を真っ青にし、ディストは苦い顔をした。



「そのレプリカは見た通り男児体ですが、あの人は間違いなく女性でした。それではどの道彼女には成り得ません」

「……それで?」

「だからこそ、最初はそうしようと思いました。ですが……」



一瞬、ディストの眼鏡の奥の瞳が怪しく光った気がした。



「これは今までにないイレギュラーです。逆にこのまま生かして研究し続ければ、より完璧なレプリカを造れる筈なのです!」



その目は正しくマッドサイエンティストと言えるような、一種の狂気を含んだモノだった。陸也は溜め息を吐きたい気持ちに駆られるのを抑えるように少年に言った。



「たまにいるよなー。こう言う変な風に開き直って更に曲がった道に進むような奴」

「そ、それを俺に言われても……」



ついさっき生まれたばかりだからわからない、と言葉を濁して言う少年に陸也はポンポンと肩を叩いた。
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