A requiem to give to you
- 歌詞のない唄(7/7) -



「その為にはイオンの言っていた"計画"ってのは絶対に止めないと」



如何なる理由があるにせよ、目の前の光を失わせる訳にはいかない。だってそれは……未来へと繋ぐ芽なのだから。



「でもよ、それにしたってどうするつもりだよ?」



グレイの尤もな問いに一瞬だけ考える仕草をしてこう言った。



「壊すんじゃなくて、覆すってのはどう?」

「それって預言をか?」



それにレジウィーダは強く頷いた。



「多分、なんだけど……あたし達がこの世界に呼ばれた理由って、そこにあるんじゃないかなーって思うんだよ」



自分達には預言はない。つまりはこの世界では有り得ない異質な存在だ。だからこそ、この世界への新しい刺激となるのかも知れない。



「もし本当にそうだとしたらさ、出来るかも知れないよ。……イオンの言っていた、世界を滅ぼさないで預言から解放される未来ってやつ」



それはまるでこの自鳴琴の様に歌詞のない唄……土台だけの全く白紙の物語のようだった。決して先の見える安全なモノではない。けれど、道は自分達で作っていく物…………自分の物語は、自分の手で作り上げていく物だから。



「その為にも、守らなきゃ」

「………………」



よし、と意気込むレジウィーダをグレイは何とも言えないどこか困ったような様子で見ていたが、不意に人の気配を感じるとその方向を振り返った。



「オイお前ら! こんな所にいやがったか」



そう言いながら現れたのはアッシュだった。



「アッシュ! もしかして捜してくれてたの? ……ってか」

「イメチェンしたのか?」



グレイが引き継いだ問いにアッシュからは「そうじゃねぇ!」と何故か叱られてしまった。因みにそんな今の彼は長かった前髪を上げてオールバックにし、服も、一般兵の団服から黒を基調とした詠師服へと変わっていた。それにレジウィーダは親指を立ててウインクをした。



「何だかちょっとだけ偉い人っぽくなってるゾ☆」

「やかましいっ! しかもちょっとだけは余計だ! ……それより、ヴァンがお前達を呼んでいる。さっさと来い!」



それだけ言うとアッシュは早足で来た道を戻っていってしまった。



「一体何なんだ??」

「さあな、取り敢えず行ってみるのが良いンじゃね?」



そう言ってグレイも一度グッと背中を伸ばした後で教会へと歩き出した。



「………………」



一人残されたレジウィーダはとうに螺子が止まり静かになっていた自鳴琴を振り返ると、そっと蓋を閉めてからしまった。そのまま一度だけ墓石を見て言った。



「君が、本当に望んだ世界になるように頑張るから!」



それからレジウィーダも踵を返し、今度は振り返る事無く走り去った。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







誰もいなくなり、静寂に包まれたかと思われたその場所に、スッと一つの影が差した。



「イオンは死んだ……か」



音もなく現れた男はどこか寂しげにそう呟くと、優しい手つきで墓石を撫でた。その時、少しだけ辺りの空気が和らいだ気がした。まるで「大丈夫だよ」と言われているようで、それに気付いた男は驚いた表情を見せ、それからフッと微かに笑った。



「物語はもう、変わってきているんだな」



そうなんだろう? ローレライ……



"――――――"



その声に応えるかのように小さな風が吹き、彼の明るい金の髪を撫でた。それを受けた男はゆっくりと墓石から手を離し、目の前に聳え立つ教会を振り返った。



「今度、逢いに行くから」



待ってろよ

それは誰に向けた物だったのか。それを知るただ一人の人物は、その言葉を最後に静かに去って行った。













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