A requiem to give to you
- 歌詞のない唄(6/7) -



「預言に踊らされてようが、誰が世界を滅ぼそうがオレには関係ねーし、そもそも興味がない」

「……成る程、実に君らしい意見だね」



イオンは考える様な仕草を取りながらグレイの言った言葉に頷くと、彼は「それにだ」と続けた。



「例え自分が死ぬ運命にあってもそれが預言のお陰だっつーンなら、妄信している奴らにとっては寧ろ本望だろうよ」



随分な言い方ではあるが、確かに彼の言う通りだった。前に教団の人達が話しているのを聞いたのだが、中には本当に己の死が預言に詠まれた物だと知って、自らその命を差し出すような者だっているのだと言う。全てが全て、イオンのように絶望するばかりではないのだ。……だけど、



「「それも一つの生き方なんだろうな」」



自然と、グレイの言葉と重ねて呟いていた。それに彼はレジウィーダに一瞥を寄越すと更に言った。



「何かを目標に、生き甲斐にして毎日を生きてるってのは決して悪い事じゃねェ。それが誰かの掌で踊らされているような物だとしても、そうなる道を選ぶそいつらの心は自由だからな」



それが過ちかどうかと言うのも、結局は自分達で決める事だ。間違いだと反発して諍いが起きたとしても、それで何かが拓ける事だってある。



「ヒトは考える生き物だから。一度しかない生の中でたくさん考えて、悩んで、そして……幸せになる道を見つけるんだよ」



そう言ってレジウィーダは満面の笑みを浮かべた。



「知ってる? 笑顔はね、幸せの象徴なんだ」



どんなに絶望の淵にいようとも、幸せと感じる心があるのなら、人は笑顔でいられるんだ。



「導師……いや、イオン」



と、グレイが今度は彼の名を呼ぶ。そして二人は言った。



「お前は」

「君は」




















今、幸せ?






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「イオン、最後まで笑ってたね」



普段は殆ど人の来る事のない、教会の裏にある小さな庭にひっそりと立てられた真新しい墓石を見つめながらレジウィーダはそう呟いた。結局、最後の問いにイオンが答える事はなかったが、その時の彼の儚くも優しい笑みが今でも鮮明に思い出される。



「少しでも、幸せだと思えていたかな?」

「さあな」



彼女の少し後ろで空を見つめていたグレイは肩を竦めながら返した。



「けど、お前の言う『笑顔が幸せの象徴』だってンなら、そうだったンじゃねーの?」

「だと良いなぁ」



苦笑してそう言うと、レジウィーダは墓石の前にしゃがみ込んで小さな木箱を取り出した。それを地面に置いて蓋を開ければ可愛らしい音が流れる………自鳴琴【オルゴール】だった。



「それは、」

「あたしの宝物」



誰が作ったのかわからない。気付いた時にはずっと、肌身離さず大切に持っていた。流れる曲も聞いた事のない物だったが、聞いているととても気分が落ち着くのだ。

儚く、だけどとても優しい音色。それはまるで……鎮魂歌【レクイエム】



「……アンタがイオンに言っていた事には、あたしも半分は同感だ」



振り向かずに言った言葉にグレイからの視線を感じた。



「でも、それでも……あたしはこの世界も、この世界に住む人達も大切だって思う」



まだこの世界に来てからそんなに経っていない上に、大勢の人々と関わってきた訳でもない。でも、その中でもこの一ヶ月近くの間で沢山の人達を見てきた。預言に幸せを見出す人、それを良しと思わない人、預言自体に縛られない人など……まだまだ色々な人達がいる。

そんな人達の笑顔を、守りたい。



「それにまだ幸せを知らない人や、笑い方がわからない人だっている。そんな人達に教えてあげたいんだ」



君たちのいる世界はとても素敵で綺麗な所なんだよ、と。


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