A requiem to give to you
- 伸ばされた手(3/7) -



「うっわー……完全に濡れてやがる。何だってこんな事になってンだよ、畜生っ」



陸也は制服の上着に染み込んだ水を絞りながら愚痴る。相当吸っていたのか、絞れば絞るほど水がポタポタと出てきた。

ある程度水を絞ると、シワを伸ばすようにバサバサと制服を振る。するとポケットに入っていた鏡が音を立てて落ちた。



「あーあ、髪のセットまで崩れてら。………ンン?」



落ちた鏡を拾って髪を確認していると、何かがおかしい事に気がついた。



「あ、れ? 目が……」



そこまで言った丁度その時、彼の言葉を遮る程の大きな声が響いた。



「見付けましたよ!!」



耳障りな甲高い声と共に現れたのはディストだった。



「……誰だテメェ」



突然のディストの登場にやや呆然としながら訊くと、何故か彼はショックを受けたような顔をした。



「……なっ、こ、この私を知らないと言うのですか!?」

「知るか。つか知っていたとしてもどうでも良い事は覚えない主義だからな」



でもこんな変質極まりない奴はなかなか忘れられなさそうだ、と心の隅で思ったが、当然相手が知る由もない。ディストは何か色々言いたそうにしていたが、「まぁ、良いです」と自己完結をさせて陸也の後ろにいる少年を見た。



「今、用があるのは貴方です!」

「…………っ」



後ろで息を飲む気配を感じ、そう言えば自分以外にもいたなと思いながらも振り返る。ここで陸也は初めて少年の姿をその目に写し、驚愕した。



「お前……!?」



その少年の姿とは、

















自分のよく知る者と同じだったのだ。














だが……



(いや、でも待て………違う。あいつに比べたら少し幼いか?)

「……な、何だよ」



少年は上から下まで凝視してくる陸也の視線に居心地の悪さを感じ、後ずさる。



「? 貴方は彼を………いえ、彼の被験者《オリジナル》を知っているのですか?」



ディストは陸也の様子に素早く反応した。彼の質問にハッとして少年から視線は外し、疑問を口にした。



「おりじなる……って、何だ?」

「その模造品《レプリカ》の元となった人間の事ですよ。………それで貴方はその人物を知っているんですね!?」



もう一度同じ質問をされ、陸也は何とも言えない表情をして答えた。



「元となる人間、ねぇ。元かどうかはわかンねーけど、よく似た奴なら知ってるぜ」

「ほ、本当ですか!!?」



陸也の言葉にディストは鬼気迫る勢いで彼に迫る。それに陸也は嫌そうな顔を隠さずに数歩下がって小さく頷いた。



「……あぁ、本当なら今日はそいつも含め皆で公園にいた筈なんだからな」



その発言に今度はディストが驚愕する番だった。



「な、ななな何ですって!!? あの人が生きてる……? そ、それで今彼女はどこに!?」

「あんま来ンな顔が近けェ!! ……つーか、アイツがお前の言ってる奴だって保証はねーぞ!」



第一アイツ死んでねーし。そう言うが興奮しているディストの耳には今一つ届かず、「それでも会いたいんです」と繰り返すばかりだった。そんな彼に元々忍耐力の少ない陸也は良い加減苛つき、一発ディストの頭に拳骨を落とした。



「あだぁっ!?」

「まずは落ち着け。ンでもって訳を話せ。会せる会わせないの前にそっからだろうが!」



一喝したことにより、我に返ったディストは「それもそうですね」と言って眼鏡のブリッジを指で押し上げた。気分が落ち着いてくると、一つ一つ言葉を探しながらゆっくりと語りだした。



「実は………」






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