「っ!! ………アニスの………バカァっ!!」
そう言って今度は縫いぐるみを投げた……が、やはりアニスには届かない。それどころか軌道が逸れてオレの手に当たり、思わずコンタクトレンズを落としてしまった。
「ああ!?」
急いで拾おうとするが、どこに行ったかわからず床を弄る。その間にも二人の鬼ごっこは続いており、アリエッタがこちらに向かって走ってきていた。
「アニス待て!!」
「わ……待てアリエッタ今来ンじゃ…───」
ねェ、と言う前にアリエッタはオレの目の前で盛大にすっ転んだ。パリン、と言う妙に耳障りな音を立てて。
「え……………………」
「い、た………何これ?」
起き上がったアリエッタは自分の下にあった小さくて透明な物を拾い上げて首を傾げた。
「あ、割れてる」
ブチィッ、とオレの中で何かが勢い良くキレた。
「…………アリエッタ」
「え、グレイ?」
「な、何? どうしたの?」
いきなり呼ばれた事に驚くアリエッタと、只ならぬ様子を感じ取ったアニスが恐る恐る近付いてきた。オレは躊躇なくアリエッタのその胸倉を掴むと大きく息を吸った。
「お前なァ……………」
いい加減にしやがれッ!!!
多分、この世界に来て一番大きく怒鳴った瞬間だったと思う。
*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇
狙撃手にとって狙いを正確に定める為の視力は必要不可欠なモノ。気配だけで撃てる? そんな芸当出来る訳がない。
それにオレが使う武器と言うのは譜業銃だけじゃない。ナイフに小爆弾、苦内、時に"紐"に"針"とまぁ………兎に角色々な暗器と呼ばれる小道具を使用する。
ならば当然夜とか、暗い場所で行う事が殆どで、その為には俗に言う夜目が利かなければならない。
今、オレは己の視力を補う術を失ってしまった為、視界が悪ければ夜目なんてまるで利かない。これは狙撃手にとって、そして暗殺者にとっては致命的だった。
「はぁ…………どーすンだよ」
と、思わず溜め息を吐いてしまうのも仕方がない事だと思う。あの後、泣きながら逆ギレしたアリエッタと目を白黒させるアニスを放置して一先ずダアトの商業区に行った。そこで何とか新しいレンズの購入を試みたのだが、やはりと言うか。作るのには数日かかるらしい。
ぶっちゃけ有り合わせで何でも良いから売れと交渉したが、そこは職人。「適当なのは売れん」の一点張りで押し切られてしまった。
結局何も出来ないままに部屋に帰ってきて、一番に目が入ったのは今朝方リグレットから渡された明日の任務に関する紙だった。
……マジどうしよう。
このままじゃまともに任務なんて出来ない。かと言って今更訳を話す訳にもいかないし………
「………って、待てよ。レンズが割れたの見られたって事は……バレた?」
最悪だ。アリエッタはともかく、多分アニスならあのレンズがどう言った使用用途があるかわかるかも知れない。だとしたらバレた。絶対バレたろコレェ……。
「あああっ、ホンットどうすりゃ良いんだよチクショー!!」
そう言って頭を抱えてベッドに転がっていると、不意に誰かが部屋に入ってきた。
「激しい独り言だな」
その内禿げるんじゃねぇか?
「………ギャグか?」
「ちげぇよっ!!」
と、突っ込んだのはアッシュだった。つか、どう聞いてもオヤジギャグじゃねーか。