ふわふわと、そして静かに上昇し続ける様子にタリスはサッと血の気が引いた。
「どう言う事なの!?」
慌ててレジウィーダの手を取り引き留めた事でこれ以上の上昇を抑える事が出来たが、その時には既にサフィールの姿はなくなっており、どうする事も出来なくなっていた。
「お嬢ー、体が軽いー。多分だけどこれ結局泳げないやつじゃね?」
「そうなるわねぇ………いえ、問題はそこではないわ」
まるでヘリウムで浮いた風船だ。レジウィーダ自身多少の移動は出来たのだが、自力で下に戻ることは不可能だった。
「えー………どうするべきこれ?」
「レジウィーダ!? 何で浮いてるんだ!?」
その時、異常事態に気が付いたらしいルーク達がこちらを見て驚きの声をあげていた。いつの間にかジェイド以外のメンバーも集まっており、タリスに手を引かれて浮いているレジウィーダは空笑いをするしかなかった。
「実験失敗的な?」
「意味がわかンねーよ」
グレイのツッコミは尤もである。
「君はいつから風船になったんだ?」
「ヒース、そのツッコミ方も少し違う」
「でも的は得てるだろう?」
「いやそうだけどさぁ……」
なんて、ヒースとガイのやり取りを他所にティアとナタリアが不安そうな表情でこちらを見ていた。
「このままでは外に出られないわね……どうしようかしら」
「そもそも、それは元に戻るのでしょうか?」
正直な話、誰もそれはわからなかった。
「うーん、まぁ……地上に降りるだけなら出来なくはないかな」
「確かにレジウィーダの使う術で重力関係の物があったもんね」
「だけどそれって結局一時凌ぎだろ? 解決になってないって」
ルークの言う通り、その場合を凌ぐ程度しかない。しかもいつ戻るのかもわからない状態で常に術を使い続けるのも危険である。
───でも、
「でもさ、これなら泳げなくても皆と遊べるじゃん!」
水に沈む事ない。皆が届かないところまで浮かないようにだけ気をつけていれば、いくらでも遊べるのである。それに仮に天井まで行ってしまっても、それこそ重力系の術で戻ってくれば良いだけの話だ。
そうレジウィーダが説明すると皆はポカンと呆けた後、次第に緊張が解けたように息を吐いた。
「知ってたけど、スッゲーポジティブ」
「ルークも見習いたい部分だな」
ルークの言葉にガイがツッコミ、それにルークが「うるせ」とぶすくれる。
「でも、それでこそレジウィーダね」
「そうですわね」
ティアとナタリアが苦笑し、アニスはニヤリと笑った。
「て言うか、本当に風船みたいに糸でも紐でも括りつけたら楽しそうじゃない?」
「風船ごっこ的な?」
「そうそう。それで時々プールにダイブ、とかね」
「側から見たら水責め拷問にも見えなくないんだよな……」
「お前な、考え方が捻くれすぎだろ」
アニスに続きヒースとグレイが思い思いに言う。
「みゅみゅ! 空を飛ぶならボクも少しだけ出来るですの! これなら寂しくないですのー♪」
「確かに! いえーい♪」
パタパタと浮遊しながら近付いてくるミュウとハイタッチを交わし、反対の手を繋ぎ続けているタリスを見れば、彼女は仕方ないと言いたげに苦笑をしていた。
「あなたがそれで楽しめるなら、何でも良いわ」
「えへへ、心配してくれてありがとうね」
優しい幼馴染みレジウィーダは嬉しそうに笑って返した。
それから皆で時間一杯スパを遊び倒した。レジウィーダは今まで体験出来なかった水に浮かぶと言う感覚に喜び、ついでに簡単に出来る水での浮き方や泳ぎ方を仲間達から教わったのだった。
余談だが、レジウィーダのこの現象は次の日の朝には元に戻っていた。また、途中から姿を消していたジェイドが人知れず自身の幼馴染みを締め上げていた事を知る者はいなかったと言う……。
To Be Continued…
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