博士の天才的発明による実験報告 (3/5)


「確かに今まで水に潜ったりする機会なんてなかったから、皆が知らないのは仕方がないわ。だからこそ、もっとちゃんと止めていれば良かった」

「いやいや、寧ろあたしが事前にちゃんとスパについて調べなかったのが悪かったんよ。だからそんな責任を感じないで」



詰まるところ、レジウィーダはカナヅチなのである。水で遊ぶ事自体は嫌いではない。しかしどうにも昔から泳ぐ事が苦手で、足がつかない所では溺れてしまうのだ。何度も溺れかける経験がある為か、ここ近年では自慢の肺活量を生かして、救出されるまで静かに潜水する術だけは覚えたのがまた悲しい。

レジウィーダは飲み切ったジュースから口を離し、大きな溜め息を吐いた。



「せめてちゃんと浮けたらなぁ………あたしも皆とプールで遊べるのに」

「そうねぇ。何とかしてあげたいけど、直ぐにどうにかして上げるには私達には知識も技量も足りないわ」



と、タリスも同じように息を吐いた時だった。



「ハーッハッハッハッハッ! そんな時には私にお任せあれ!!」



ザバーン、と激しい水飛沫と共に二人の目の前に現れたのはディストことサフィールだった。



「「…………………」」



潜水用の海中眼鏡をかけ、ブーメランパンツに白衣着用の彼は明らかにただの変質者だった。人間本気で驚くと声も上げられないとはよく言うが、今の状況はまさにそれでタリスと二人で言葉なく呆然とサフィールを見つめるしかなかった。

それをどう捉えたのか、サフィールは海中眼鏡を頭の上まで上げると光悦した表情を浮かべていた。



「フフ、私のあまりに華麗な登場に声も出ませんか。まぁ、それは仕方がないでしょう!」

「………いやいや、ディスっちゃん何でここにおんねん」



漸くツッコミを入れるくらいには冷静さを取り戻したレジウィーダがそう問うと、サフィールは「実はですね」と説明を始めた。



「ピオニーの命令でネフリーに書類を届けに来たんですよ。貴女達がスパへの招待を受けていたのは知っていましたが、ホテルのフロントで貴女達を見かけた時に何だか不穏な空気を感じましてね。様子を見ていたら案の定お困りのようではありませんか」

「ただのストーカーじゃないの。仕事しなさいよ」



流石のタリスも呆れ顔だった。そもそもサフィールは表に出る時は常に監視が伴う筈だ。しかし辺りを見渡す限りそれらしい人影は見えない。そんな事を思っていると、彼は更に続けた。



「ふむ、まぁこちらもトイレを理由に出てきたのであまり長居は出来ませんからね。さっさと用事を済ませますよ」

「……後で怒られないように気をつけてね。それで用事って?」



問いかけるとサフィールは怪しげな笑みを浮かべるとパチン、と指を鳴らした。すると彼の横から中型の音機関が水から上がってきた。



「フッフッフッ、聞いて驚きなさい! この装置は貴女の悩みを解決するにうってつけなのです!」

「と言うと?」

「相変わらず察しの悪い方ですね。貴女は折角のスパで泳げない事に悩んでいる! ……つまり、それを解消させる事が出来るのですよ! この装置でね!」

「え、じゃあ泳げるようになるの?」



レジウィーダは漸く合点がいったように目を丸くする。それと同時に期待が込み上げ、サフィールに問いかけると彼は力強く頷いた。



「そうです! 沈むのならば、浮けば良いのですから!」

「よっしゃ、じゃあ早速やって!」

「え、レジウィーダちょっと待っていきなりやるのは………」



タリスが待ったをかけるのも遅く、サフィールはレジウィーダの言葉に頷くと即座に音機関のスイッチを押した。その瞬間、カメラのフラッシュのような光が焚かれてレジウィーダの姿が見えなくなった。
















そう、見えなくなったのだ。



「レジウィーダ?」



タリスがキョロキョロと辺りを見渡して探すが、レジウィーダの姿はない。しかし……



「お嬢ー」



突然、タリスの頭上から声がした。思わず声の方を見ると、なんとレジウィーダが宙を浮いていた。



「………はい?」



たまにレジウィーダが使う能力のように風で飛んでいる……と言うよりはまさに浮かんでいる、と言う表現が正しいだろう。


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