博士の天才的発明による実験報告 (2/5)


これは、世界の平和を賭けて奔走する者達の一時を描いた出来事である。






博士の天才的発明による実験報告
【CASE:レジウィーダ】






レジウィーダ達旅の一行はケテルブルク屈指の高級ホテルへと来ていた。既に何度か泊まった事のある場所だが、今日の目的は日々の戦いの癒しを求め、ピオニー陛下の計らいにより最上級スパである【メガロフレデリカ・スパ】への招待を受けていたのだった。



「ようこそ。メガロフレデリカ・スパへ。会員証はお持ちですか?」



フロントにいる女性がそう言うと、ルークはピオニーから預かっていた紹介状を渡した。すると女性は驚いたように目を丸くしたのだった。



「これは! ピオニー陛下からのご紹介の方でしたか。失礼いたしました」



次いで女性からピオニー陛下からスパで着用する為の水着を預かっていると伝えられ、目新しい事に興味津々なルークとは反対にナタリアは半眼で呆れていた。



「……下心が透けているようですわね」

「ははは、まぁそう言うなよ」



ガイが苦笑して返し、それに他の者達もそれぞれの反応を返す中、タリスがこっそりとレジウィーダに声をかけてきた。



「ねぇ、レジウィーダ」

「うん、何?」



どことなく心配の色を見せるタリスに首を傾げていると、彼女は言い辛そうに続けた。



「えーと、ねぇ。レジウィーダは大丈夫かなって」

「どう言うこと??」

「だって、スパよ?」

「うん。

















で、スパって何?」



取り合えず皆の流れに身を任せるままにここまで来たが、正直な話スパの何たるかはわからなかった。かと言ってあまりここで聞くのも流石に違うな、と思い取り敢えず良い機会とタリスに問い返せば、タリスは「そこからなのねぇ」と苦笑を浮かべていた。



「簡単な話、温泉だ」



そう答えたのはグレイだった。



「つか、水着着用って事は混浴なんだろ」

「わーお、なるほどー」



短く、それでいて非常にわかりやすく説明された内容にい納得すると同時に、やはりタリスの心配の意味がわからなかった。



「でも、温泉って事はお風呂って事だろ? なら、何の心配もないっしょ」

「それなら、良いのだけれど………大丈夫かしら」



結局、男女別れてそれぞれの更衣室に行くまでの間、タリスの表情が晴れる事はなかった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「…………………」



レジウィーダは頬を膨らませて静かに座っていた。少し離れた場所では、ルークやアニスを始めバシャバシャと水をかけあったり、温水プールで泳いだり、ビーチベッドでくつろいだりしている仲間達がいた。いずれも皆とても楽しそうに過ごしている。

一方、いつもならそんな仲間達に混ざって積極的に遊び倒す筈のレジウィーダは、温水プールの淵に腰掛けて足を浸け揺らすくらいだった。



「やっぱりこうなったわねぇ」



薄紫色のビキニタイプの水着を身につけたタリスが両手にジュースを持ってやってきた。彼女はレジウィーダの隣に腰掛け、ジュースの片方を差し出す。レジウィーダはそれを受け取り、唇を尖らせた。



「プールだなんて、聞いてない」

「説明不足だったわね」



ごめんなさいね、と苦笑しながらタリスが謝る。しかしタリスにしてもピオニー陛下にしても別に今回の事で悪い人なんていないのだ。レジウィーダは首を横に振ってそれを伝えると、ジュースについているストローを咥えた。



「でも、何もここはプールだけじゃないわ。ちゃんとゆっくりと湯船に浸かれる場所もあるのだし、楽しみましょう」

「うん…………でも、あたしも皆と遊びたかったなぁ」



タリスが励ましてくれるが、やはり本命はそこである。

更衣室で受け取った朱と橙のグラデーションで彩られたセパレートタイプの水着に着替え、期待を胸にスパエリアへと飛び込んだレジウィーダは勢い余ってプールの真上へと出た。

え、と現実に返った時にはドボーンと盛大な水飛沫を上げてプールへと落ち、それを見たタリスが悲鳴を上げたのは記憶に新しい。先にスパエリアへと来ていたルーク達が何事かとタリスの側に来ても尚、プールからは水泡が上がるだけでレジウィーダが浮かび上がってくる事はなかったのだ。

後からヒースと共に来たグレイが即座に状況を把握すると舌打ちと共にプールに飛び込んで、いつまでも浮かんでこないレジウィーダを引っ張り上げた事で事なきを得たのだった。


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