博士の天才的発明による実験報告 (3/5)


でもよ、とグレイは口を開く。



「言ってもまだオレら高一だぜ? まだまだ伸び代があるだろうよ。つーか、そもそもお前まだそこまで爆発的に伸びてねーじゃん」

「だからその内伸びるって? だとしてもそれまでが待ち遠しいね」



しかもその理屈ならば目の前のこの男だってまだ伸びる可能性があるのだ。彼の場合は中学で急に伸びたパターンだから逆にもうあまり伸びない可能性もあるが………



(いや、トゥナロがこいつよりも更に高いってことは、少なくともグレイはまだ伸びるって事だし)



別にグレイを追い越したいわけではない。ただ、隣に並ぶこの親友は性格こそアレだが、実にポテンシャルの高いヤツなのだ。顔も手先も頭だって良い。そんなヤツの親友と謳うのが鈍臭くてオタクっぽくて頭も大して良くなく、背も低いようなのがあまりにも不釣合いだと常々思う(とは言っても今更性格を変えられるとも思っていないし変えるつもりもない)



(せめて背だけでも近くなれば見える世界だとか、人の目だとかも変わるのかな………なんて思ったりもするけど、そんなのただの希望論でしかないしな)



自分よりも大きな人間に不安と少しの恐怖を見せていたあの少女を一瞬で笑顔にしたグレイのあの行動も、こいつのこの背丈だからこそ少女に新しい刺激と世界を見せてあげられたのかも知れない、なんてどうしても後ろ向きに考えてしまう。



「一日で良いから、違った目線で世界を見てみたいよ」
























「ハーッハッハッハッハッ! ならばその願い、この天才発明家が叶えて差し上げましょう!!」



返ってきたのは全くの予想外のところからだった。

聞き覚えのある高笑いがしたと思ったら、突如直ぐ側の草むらからこれまた見覚えのある人物が飛び出してきた。



「ンだテメェ急に現れンな」



間髪入れずにグレイが相手の米神に銃を突きつける。それに「ぎゃああああっ」なんて恐怖に慄く悲鳴が上がり思わず耳を塞ぐ。



「グレイ! 出会い頭に武器を向けるだなんて酷いではありませんか!?」

「煩ェ、心臓に悪い出方をする方が悪いわ」



それは言えてる、と内心頷きつつ耳から手を外し、ヒースも口を開いた。



「それで……………サフィール博士は一体ここで何をしているんですか?」



問いかけるとサフィールはパッと顔を明るくすると胸を張った。



「良くぞ聞いてくれました! 実は携帯電話開発の隙間時間に新しい装置の調整をしていましてね! そしてついて出来たのですよ!」

「ほう?」



聞いて驚きなさい、とサフィールが己の隣に手をやると、草陰から中型の音機関が出てきた。



「これぞ私が発明した、《対象の時間を操作する為の装置》なのです!!」

「! それはつまり……」

「オイ、ヒースあんまりこいつの言う事を真面目に聞こうとするンじゃねーよ」



グレイがなんか言っているが、そんな事よりも目の前の装置の可能性が気になって仕方がなかった。ヒースの期待を受けて更に気をよくしたサフィールがサムズアップをして頷いた。



「貴方のその悩み、解決して見せましょう!」

「是非お願いします」



間髪入れずにお願いすると、サフィールもまた待ってましたとばかりに間を置かずにいつの間にか握っていた装置のボタンを押したのだった。

















そして二十分後……



















「………で、そんな事になってしまったと言うわけねぇ」



馬鹿ねぇ、なんて呆れた声を上げたタリスにグレイは現実逃避をするように明後日を向き、ヒースはぐうの音も出なかった。



「ヒースちゃん!!!」



そしてそんな空気を物ともせずに目をこれでもかと言う程輝かせて目の前に現れたのはレジウィーダだった。



「めっさ美人さんやね!!!」



そう言って思い切り正面から抱き付いてくる。いつもだったらダイレクトに来る衝撃も、首から下の弾力が受け止めたお陰で幾分かマシに感じた。

最早そんな彼女にされるがままになる程に呆然としているヒース達を見ていたルーク達は暫し言葉を失っていたが、やがて「そうはならねぇだろ!」とツッコミを入れていた。



「あっはっはっはっはっ!! 相変わらずお前達は予想外な事ばかりで楽しいな!!」

「陛下、笑い事ではありません」

「そう言うカーティス大佐も笑いが隠し切れていませんよ」



玉座で大笑いをかますピオニーに突っ込む愉快そうなジェイド、そしてそんな彼に唯一まともに心配の色を見せながら更に突っ込んでいたのはフリングスだった。

そんな彼らの空気に漸く仲間達も落ち着きを見せ、ガイが戸惑ったようにヒースを向いた。



「取り敢えず、ヒース………なんだよな」

「自分でも嘘だと思いたいけど、そうだね」

「うっわ、声まで変わっちゃってるよ」



いつもよりも高い声、まるで自分の声のような気がしないが、それでもその音が吐き出されたのは己の喉からだ。そんなヒースの声にアニスが若干引いていたが、それもまぁまぁ仕方がないのだろう。



「それで」



と、タリスがグレイを見た。



「何であなたがついていながらこんな事になってるのよ?」

「オレは止めた。聞かなかったのはそこの馬鹿だ」

「だって背が伸びるって聞いたから」

「え? そんな理由!? しかも伸びるどころかそれじゃあ縮んでるし!!」



アニスのツッコミは尤もだ。

そもそもサフィール(逃走済み)は対象の時間を操作出来る、と言っていた。それはつまり一時的に年を進める事で大人の背丈になれる事だと思っていた。

しかし実際は時間を操作するどころか………



「女になったなんて…………どこの商業漫画だよ」



しかもそれが普段は見る専の己がなるだなんて、誰が予想が出来ようか。


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