博士の天才的発明による実験報告 (2/5)


これは、世界の平和を賭けて奔走する者達の一時を描いた出来事である。






博士の天才的発明による実験報告
【CASE:ヒース】






あくる日のグランコクマ。激動の日々を過ごす一行はマルクト帝国の若き皇帝ことピオニー・ウパラ・マルクト陛下より呼び出されてこの街へと来ていた。



「ピオニー陛下は一体俺達に何の用があるんだろう?」



水の音が涼しげなハーモニーを奏でるのをBGMに街を歩いていると、ふとルークがそう漏らした。しかし彼の疑問の答えを持つ者は誰一人としておらず、皇帝の幼馴染みにして懐刀とされるジェイドでさえ「さあ」と肩を竦めていた。



「あの気まぐれの事です。どうせまた暇潰しなのでは?」

「隙あらば己が娯楽の為に呼び出されても困りますわ」

「……全くね」



ジェイドの言葉に呆れたようにナタリアとティアも返す。いつもだったら「そうとは限らない」とフォローに入るであろうガイも、どこか心当たりがあるのか苦笑するだけだった。

そんな仲間達の会話を耳に入れながら一緒に歩いていたヒースは、視界の端に見つけた物に足を止めた。



「?」

「ヒース、どうかしたか?」



急に立ち止まったからか、近くを歩いていたグレイが問いかけてくる。それにあれ、と見つけた物を指差した先には木の下に小さな女の子が立っていた。

年齢は恐らく十にも満たないであろう幼い少女の側に保護者と思わしき人物の姿はなく、泣いてはいないがどこか悲しげな様子は……………きっと迷子なのかも知れない。

ヒースはルーク達の方を見る。ジェイドはわからないが、少なくともルーク達はこちらに気付いていないのか既に大分先へと進んでいた。



「……まぁ、流石に放っておくのもなぁ」



そう呟き、少女の方へと足を向かわせる。後ろからグレイもついて来ている気配を感じつつも少女の前に来ると、目線を合わせるように蹲み声をかけた。



「君、どうしてこんな所で一人でいるんだい?」



え、とこちらを見た少女は見知らぬ大人(ではないが)に驚き、そして少しだけ強張った表情を浮かべたが、直ぐにまたシュンと落ち込んだように目線を地面に向けた。



「ママが……迷子になっちゃった」

「ああ………そっかぁ」



ママが、と言う言葉にツッコミを入れたい気持ちを苦笑して誤魔化す。



「買い物とか?」

「うん。でも、おトイレに行ってたらもうママがいなかったの」

「それって自業自得じゃ「じゃあ、もしかしたらママも君の事を探しているかも知れないね」



余計な事を言いそうになったグレイの口を塞いで割り込み、更に質問を重ねた。



「今日何を買うのか決まってた?」

「えっと………お薬と、ご飯の材料って言ってたよ」

「成る程。なら、あっちの方角だから………もしかしたらまだそこで買い物をしてるかもね」



だからさ、と少女に笑いかけた。



「僕達で良ければママを探すのを手伝わせてもらえないかな?」

「いいの?」

「勿論。困っている人を放ってはおけないからね」



そう言うと少女は漸く安心したように笑顔を浮かべた。反対にグレイが面倒臭そうに顔を顰めていたが、それは取り敢えずスルーして少女に手を差し伸べる。



「手、繋ぐ?」

「うん」



少女がヒースの手を取ろうとした時、グレイが「ちょっと待て」と言った。



「こんなチビ助と手を繋いでヨチヨチ歩いてたンじゃあ、日が暮れるわ。それだったら───よっ、と」

「わあっ!」



言うが早くグレイは少女を軽く持ち上げると肩車をしたのだった。



「この方がお互いに見つけやすいだろ」

「わぁ、高いね!」

「お前な、一歩間違えたら犯罪になりかねん事を……」



ある意味、遠慮のない彼らしい行動だが、少女自身が喜んでいるのなら……とこれ以上は文句を言うのはやめておいた。















ただ、正直面白くはない……………と言う気持ちも一緒に隠しておく事にした。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







あれから直ぐに少女は母親と再会出来た。一通りの買い物を済ませて振り返ったらいなくなっていた娘に母親も相当焦っていたのか、少女を見て安堵し、それから二人に何度も頭を下げて感謝していた。

取り敢えずやる事も終わり、グレイと二人城に向かって歩きながら、ヒースは溜め息を吐いた。



「はあ………」

「? どうした?」



グレイが不思議そうに問いかけてくる。それにヒースは別に、と返すが、そんな事で当然この親友が納得するわけでもなく、彼は眉を寄せながら「何だよ」と更に詰めてくる。



「いや、僕が勝手に落ち込んでるだけだから気にするなって」

「逆にお前だから余計に気になるンだろーが」

「僕の事好き過ぎか」

「そう言う事じゃねェ」



あまりふざけてると殴るぞ、と睨み付けてくるグレイ。今更別にそれが怖いわけではないのだが、この様子では退く事もないのだろうと諦めて本音を話す事にした。



「笑うなよ……………………



















お前の背が高いのが羨ましい」

「……………………」

「一応弁明するけど、決して女の子を肩車したかったとか言うわけじゃないからな」

「流石にわかっとるわ」



はぁ、とグレイは脱力したように大きく溜め息をついて片手で頭を押さえた。



「ったく、ルークと言いお前と言い………別に特別低いわけじゃねーだろうよ」

「かも知れないけど、やっぱ側にいる奴とこうも差があるとなぁ」



実際、8センチと言うのはそれなりだと思う。勿論、背が低くても様になる人だっているのも知っている。

だがしかし、



「それでも男の心情としては背はあった方が良い」

「そう言うモンかねェ?」

「そりゃあお前には無縁の悩みだろうけどな」



人にはそれぞれの悩みがある。ただそれだけの事だ。


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