A requiem to give to you- Midnight Party(2/11) -
アブソーブゲートでの戦いに勝利し、無事に残りの外殻大地を魔界へ降下して三日程。急激に変わった世界に人々は混乱していたが、キムラスカとマルクト、そしてダアト、ケセドニアのトップを中心に動き、今の世界の状況や預言の在り方についてなどを知らせ伝えている最中である。それにより少しずつだが、大きな街を始めとして人々は落ち着き始めていた。
そして、長年の因縁により対立していたこの世界を統べる二つの国が手を取り、和平が結ばれた。人々の中ではまだまだ蟠りもあるだろうが、こればかりは今後の国を収める者達の手腕にかかってくる事だろう。
そんな漸く手に入れた平和な世界のとある場所では、今まさに結んだ筈の和平がぶった切られん事態が発生していた。
「納得いきませんわ!!」
場所はマルクト帝国帝都、グランコクマ。ピオニーに呼ばれたルーク達は謁見の間………ではなく、何故か彼の私室に案内されたのだが、そこで出された話題を進めていった結果、キムラスカ代表とも言えるナタリアの怒声が上がったのだった。
「キムラスカとマルクトが和平を結び、凄惨な戦争が終わりました。それに滅びかけていた世界を救ったルークや異世界の者達を称える為の記念パーティを二国合同主催で行う事も賛成です………ですが!」
と、ナタリアはピオニーの目の前に一歩踏み出すとカッと目を釣り上げた。
「異世界の者達へのドレスコードを全てマルクトの方を準備するのは、違うのではありませんか!?」
「まぁまぁ、落ち着いてくれたまえナタリア王女」
ピオニーは苦笑を漏らしながら詰め寄るナタリアを宥める。
「まず、マルクトの方ってのは間違いで、これは俺個人の気持ちだ。それに異世界の者達もだが、王女やルーク達もまた世界を救った功労者だろう。だから、これはマルクトとかキムラスカとかではなく、命を張って頑張ってくれた貴殿らへのピオニーと言う人間からの礼だと思ってくれれば良い」
「ですが陛下個人と言っても、それではお父様の顔が立ちませんわ」
ピオニーとて一人の人間だが、そこに就く地位と言うのは決して無視できる物ではない。黙っていれば良いのだろうが、しかしそれではキムラスカの王女として責任感の強いナタリアはやはり納得が仕切れないのだろう。
そんなナタリアとピオニーのやり取りにルークが隠し切れない面倒臭さを醸し出しながらガイにこっそりと言った。
「別に国でって言うわけじゃないなら、素直に受け取っても良いような気がするんだけど……」
「ま、まぁそうなんだけどな。でも、一般人のご近所付き合いとは訳が違うからなぁ……」
「アニスちゃんとしては、豪華なご飯と綺麗な衣装が着れれば何でも良いんだけどね〜」
「アニスってば………私は、別に無理してドレスとか着なくても良いのだけど……」
二人の話が聞こえていたアニスとティアもそれぞれの気持ちを吐露する。ティアの言葉にアニスがあり得ないと言ったように目をかっ開く横でタリスが少し考える仕草を取り、それから未だにああだこうだ言い合う二人に向かって口を開いた。
「それだったら、ピオニー陛下とナタリアの二人で分担して用意すれば良いんじゃないかしら?」
その言葉に二人はピタリと止まり、そしてナタリアは目を輝かせた。
「それは名案ですわ!」
「俺としては全員分のを考えたかったんだが………まぁ、それで王女が納得してくれるならまぁ、良いか」
そんな訳で、ナタリアがルーク、ティア、アニス、タリス、ヒースを、ピオニーがジェイド、ガイ、イオン、グレイ、レジウィーダのドレスを用意する事となった。そしてパーティは一週間後にケセドニアにあるアスター邸にて行う運びとなり、一先ず解散となった。
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それからあっと言う間に一週間が経ち、アルビオールでパーティの参加者達をケセドニアへと送ってもらい、早速それぞれ準備やら着替えやらを始めた。
……のだが、
「なぁ、レジウィーダ」
と、ピオニーがレジウィーダを呼ぶ。それに首を傾げながら彼の前に来ると、ピオニーは使用人に持たせていた二着のドレスをレジウィーダの前に出して見せた。
「他の奴らは直ぐに決まったんだが、お前のドレスだけは最後まで決まらなくてなぁ。この二着に絞ってみたから、良かったらどちらか選んでくれないか?」
「えぇー…………」
そう言われてレジウィーダは困ったようにドレスを見た。使用人の女性の右手には赤を基調としたセパレートタイプのドレス。花模様の刺繍があしらわれた膝丈のスカートにシースルーのフリルのついた白地のトップ。紅色の髪と近い色でとても馴染みやすく、それに年相応で可愛いらしい。
左手にあるのは青を基調としたワンピースタイプのドレス。肩の出る膝丈のワンピにキャミ風のこれまたシースルーのワンピースが重ねられており、模様らしい模様はないが、スカート部分には小さな星のアクセントがうるさくない程度にあしらわれている。髪の色とは正反対だが、逆にそれが映えるような少しだけ大人なデザインだ。
正直、どちらもすごく良い。……だがしかし、レジウィーダは直ぐには決められなかった。
「うーん…………うーんー……」
「オイオイ、お前までそんなに悩むなって」
ピオニーは意外そうに目を丸くしながら言った。
「お前ならちゃちゃっと決められるだろうよ。昔だってよくジェイド達の衣装をどっからか見繕ってたじゃねーか」
「そうは言いますけどねー。自分が着るってなると、どうにも……」
そう、人を着飾るのは好きだが、自分の事には割と無頓着な気のあるレジウィーダでは、己の為に用意された着飾ってもらう為の選択肢と言うのに耐性がなかった。だからこれは、似合う似合わないと言う以前の問題なのだった。
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