A requiem to give to you- 語られなかった隙間2(3/3) -
【グレイとイオン(とシンク)】
※イオンの部屋を出る時
復活した障気問題の解決策を見つける為、クリフが遺した預言を頼りにベルケンドへと向かう事になった。ルーク達は準備をするのに一度街に寄る事になり、イオンの部屋を後にする。皆が出て、最後にグレイもその後に続こうとした時だった。
「あ、グレイ」
呼び止めたのはイオンだった。グレイは前に踏み出そうとした足を止めてイオンを振り返る。
「どうした?」
「あ、いえ……大した事ではないのですが」
そう言って言い淀む彼を急かす事なく待っていると、やがて彼は己の手首のあたりに視線を向けた。
「その……大丈夫でしたか?」
「? ………ああ、アレなぁ」
何となく言いたい事がわかり、深く溜め息を吐く。そんなグレイ達に同じく部屋に残っていたシンクが訝しげにこちらを見て首を傾げていた。
「何? 何かあったわけ?」
そう言えば昨日説明した時にコイツはいなかったな、と思いつつももう一度あの説明をする面倒臭さを感じてどうしようかと考えていると、代わりにイオンが口を開いた。
「昨日、ルーク達が来る前にクリフに言われてヴァンの執務室に行ったんです。そしたらそこで………グレイが拘束されてまして」
「どう言う事??」
「そのままの意味だよ。あのクソガキにやられたンだ」
今思い出してもしてやられた怒りが沸々と湧いてくる。そんなグレイを心配するようにイオンが言う。
「かなりキツく縛られていたみたいなので、ちゃんと治療を受けたか気になってまして………」
「別にそこまで重症でもねーし、態々回復を頼むほどじゃねーって。それにキツくなったのもある意味自業自得だし」
それに今度はイオンも首を傾げ始めたので、仕方なく説明する。
「シンクは知ってると思うけど、アイツの趣味なのかかなり特殊な結び方したみたいでよ。そもそも、目が覚めていきなり縛られてたら混乱もするだろ」
「ああ………成程ね」
流石にシンクはそれだけで全てを察したようだ。彼は途端に憐れむような視線を向けた。
「暴れたせいで余計に縄が食い込んだって事ね」
「しかも知識がない奴には他力でも解けないって言うオプション付きな」
「うわ…………まぁ、どんな縛り方だったのかはあえて聞かないけど、拘束するって意味では優秀なのかもね」
「少なくとも”友人”と称する奴にする事じゃねーけどな」
それもそうだ、と最早無感情に言葉の応酬をする二人にイオンは苦笑を禁じ得なかった。
「ま、まぁ大丈夫そうなら良いんですが………けれど無茶だけはしないで下さいね」
「それ、特大ブーメランだろ」
お前も大概だわ、と突っ込むとぐうの音も出ないのかイオンは申し訳なさそうに笑った。
「あはは………」
「けど、今度からはシンクもいるし、そうそう最悪な事態にはならねーか」
そう言いながら、グレイは上着のポケットに手を突っ込むと携帯電話を取り出してイオンに投げ渡した。
「持ち主が起きて来ないンじゃ意味ねーから、取り敢えずお前が持ってろよ。手紙よりもよっぽど早いし、緊急時はレジウィーダに頼んでそっちに連絡入れるからよ」
パスワードは既に解除している為、彼らでも操作は出来る筈だ。問題があるとすれば、連絡を取るのが一方通行な点だが………それは然程問題ではないだろう。
イオンは携帯電話を受け取りそれをマジマジと見つめた後、嬉しそうに笑った。
「ありがとう、グレイ」
「礼を言うのはこっちだ。クリフに誘導されて来たとは言え、あの時は助かった。…………ありがとな、イオン」
そう言うとイオンはポカンと口を開けてこちらを見つめてくる。シンクまでも意外そうにこちらを見てくる視線に耐えられなくなり、グレイは何かを返される前にさっさと踵を返して今度こそ部屋を出ていった。
END