A requiem to give to you
- れっつ★ぱーてぃ?2(2/6) -



「リベンジですわ!!」



とある日のバチカルにて、王女様のそんな声が響き渡った。






れっつ★ぱーてぃ?【闇鍋編】






現在、ルークはバチカルの王城のキッチンへと来ていた。人払いをしているらしく、いつもはあくせく働くシェフらはおらず、目の前には小さなコンロが一つ。見た事もない入れ物のような物が横にくっついており、コンロの上にはこれまた見た事がない形の鍋が乗っていた。



「?????」



バチカルの自宅に戻ってからは引き篭もる事の多かった己の部屋に昨夜、突如慰問から帰って来たナタリアがレジウィーダと共に乗り込んで来たのが始まりだった。何故レジウィーダがいるのかもわからなかったし、そして目の前のこの謎のセットも実に意味不明だが、とにかく次の日の昼にキッチンまで来て欲しいと言われて取り敢えず来てみたら、この状態だった。



「ご主人様、何が始まるんですの?」

「…………さあ?」



一緒について来たミュウがコンロをつつくのをやんわりと止めながらそう返していると、入口の扉が開いた。



「お待たせしましたわ!!」



と、意気揚々とナタリアが入ってきた。その手にはカゴを抱えており、中にはどうやら食材が入っているようだ。そしてそんな彼女の後ろからは、複数の人が続いていた。



「はよーっす、ルー君♪」

「待たせてごめんなさいねぇ」

「「……………」」

「──────ッ! ────ッ!!」



レジウィーダ達だった。四人が揃っているのも既に久しく見えてちょっと懐かしい──────と、そんな気分も即座に吹っ飛ばしたのは、レジウィーダが持っていた縄の先に繋がれた人物の存在だった。



「…………ア、アッシュ!?」



口にテープを貼られ、全身をぐるぐる巻きにされた己のオリジナルの姿には流石に目が飛び出すかと思った。するとそんなルークの反応にレジウィーダはとっても良い笑顔でウインクをした。



「ここに来る途中で見つけたから、連れて来ちゃった☆」

「捕まえて連行したの間違いだろ」



グレイのツッコミに「そうとも言うな!」と悪びれもせずに笑うレジウィーダにタリスもオホホと笑っている。こんな状態でナタリアはどう思っているのだろうと彼女を見るが、ナタリアはそれどころではないようでカゴの中の食材を鍋の周りに並べていた。

カゴから出されたのは卵、肉、魚、大根、人参、白菜……それから醤油や出汁などの調味料類だ。



「えっと、ナタリア。一体何をしようとしてるんだ?」



取り敢えず何か料理をしようとしているのはわかったが、何を作ろうとしているのかはわからなかった。先の旅で度重なる失敗を繰り返しながらも、料理が得意なグレイやアニスに鍛えられた彼女の腕前はかなり上達し、プロ……には遠く及ばずとも普通に食べられるくらいには成長していた。今もグレイがいるから、仮に彼女が手料理を披露するのだとしても最悪なことにならないだろう。

そんな事を思いながらナタリアに問うと、彼女は目をキラキラと輝かせながらこう言った。



「鍋パーティ、ですわ!」

「鍋?」



あまり聞かない単語に恐らく彼女に教えたであろう人物らを見る。するとヒースが口を開いた。



「僕達の世界ではよくある風習って言うのかな。鍋を囲って具材を入れて煮込んで、出来たら皆で少しずつ取って食べながら楽しく談笑したりするんだよ」

「お祝い事だったり、友達や仕事仲間とかと集まった時にやったりするんだけど、普通に家庭でも手軽に出来るし楽しいよ!」

「へえ、そうなのか」



ルーク自身、あまり想像はつかなかったが聞いている分には少し楽しそうだ。ヒースに続いて説明したレジウィーダの言葉に少し興味が出てきたがわかったのだろう、タリスが「それで」と何かを手渡してきた。



「折角ナタリアも帰ってきたし、都合良くアッシュもいたから………闇鍋パーティをしましょう♪」

「うん?????」



何やらとてつもなく不穏な単語が聞こえたような気がした。しかしタリスはレジウィーダを向くと何やら指示を出し始めてしまった。レジウィーダはそれに一つ頷くと持って来ていたいつもの大容量保存の鞄から追加の食材を取り出し始めていた。



「ルーク」



と、声を掛けれた。それと同時に両肩をポンと叩かれる感触があり、思わずそちらを見るとどこか諦めた顔をしたグレイとヒースがいた。



「取り敢えず何も言わずにそれ、飲んでおけ」



それ、と言ってグレイが指差したのはルークの手元にある瓶だった。タリスが手渡してきたそれは、何やら薬のようにも見える。しかし瓶に貼ってあるラベルはルークの知らない言語で、恐らくこれは地球の文字であろうことは何となく察することが出来た。

ノリノリで準備を進める女性陣と瓶を交互に見つめ、何だか嫌な予感が過ったルークは黙って瓶の蓋を開けたのだった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「クソッ、何で俺までこんなままごとに付き合わなくちゃならないんだ!」



鍋に出汁を入れ、基本食材を煮込み始めて数分。皆が鍋を囲んだところで漸く拘束を解かれたアッシュが悪態を吐く。しかも直ぐに逃げられないように彼の左右をナタリア(乱暴に出来ない)とレジウィーダ(腕力で敵わない)で固めている辺り、彼女らの本気が伺えた。
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