A requiem to give to you
- 仄かに灯る焔の休息(2/3) -



キムラスカ・ランバルディア王国王都バチカルにあるファブレ邸。タリスは邸と中庭を挟んだ向こう側にあるルークの部屋の前に立ち、扉をノックした。



「ルーク、起きてる?」



外殻降下の後、タリスとヒースは一先ずルークやナタリアと共にバチカルへと帰ってきた。本来ならばもう幼馴染みと一緒に地球へと帰っている筈だったのだが、事態は思っていた以上に悪い方へと向かってしまい、流石にそれを放置してまでは帰れない(そもそも帰る手段がない?)と言う事になり、取り合えずそれぞれお世話になっている場所へと行く事になったのだった。

その後、ナタリアは戦争や障気の被害が出ていた地域を中心に各地へ慰問に出ており、ヒースは何やらやりたい事があるようでベルケンドやシェリダンに行く事が多く、何だかんだで邸にいない事も多い。

そしてタリスもまた、今はユリアシティから出て新しく街を開拓し始めたアクゼリュスへの支援を買って出ている。ヒースほどではないが、週に一度、何日かのペースで向かう為、邸にいる事は少ない。初めはルークも誘っていたのだが、アブソーブゲートでヴァンに言われた事が思いの外ショックだったらしく、邸に帰ってくるなり引き篭もってしまったのだった。そんな彼を無理やり連れ出すわけにもいかず、最近では行く前に声だけかけていくのが最近のルーティーンとなっていた。

今日はまたアクゼリュスの開拓地へ向かう日だったが、まだ寝ているのだろうか。反応はない。しかし中にはいるのだろう。



(寝ているのなら、起こすのも悪いわね)



声すら聞けないのは少し残念だが、また戻ってきた時にでも顔を見られれば良いだろう。そう気持ちを切り替えるとタリスは「行ってくるわね」と一言扉に向かって告げると踵を返した。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「……………………」



部屋の外の気配が遠退いて行くのを感じながら、ルークは部屋の大部分を占めるベッドの上で寝返りを打った。実はタリスが来るよりも前に起きてはいたのだが、どうにも返事を返す気力が湧かなかった。

本当はタリスやナタリアについて行くべきだと言うのもわかっている。特にアクゼリュスは、ヴァンが引き金となったとは言えルークが自らの超振動を暴走させて滅ぼしてしまったのだから。

戦いが終わって、仲間達もそれぞれの国へと帰っていった。ガイも元はマルクトの貴族だ。外殻降下の功績とピオニー陛下の厚意によりガルディオス家を復興させてもらい、領地こそまだないが、代わりにグランコクマで暮らす事となった。



(ガイも、タリスもヒースもナタリアも、皆……外に出てやるべき事をやっている)



少し前まではちょっとその辺に出ている事はあっても、いつだってルークの側にいた人達は皆いない。別に会えない訳ではないのだが、それでも何となく……賑やかさをなくしたこの空間が寂しく感じた。

我儘だったあの時、ガイやフィーナが苦笑しながらも話を聞いてくれて、ヴァンに稽古をつけてもらい、叱られる事もあったけれど、たくさん褒めてもらった。例えそれがこちらを信用させる為の演技だったとしても、何も知らなかったルークにとっては与えられる物が全てだったから、自分だけの話を聞いてくれる存在は、とても大切なものだった。



(フィーナと言えば、師匠が…………地核に落ちたって言ってたけど、死んじまったのかな?)



今はごく一部の者しか知らされていない場所で拘禁されていると言うヴァンが言うには、自らその身を投げたとの事だった。最後に見た彼女は怒りの表情は見せていたものの、自害するような雰囲気など感じられなかった。寧ろまだまだこれからだとでも言いたげに去っていったのを覚えている。そんな彼女が、突然考えを改めて死んでしまうとは考えにくい。



(つっても本人がいないんじゃ、いくら考えても答えなんて出てくるわけないよな…………それに、)



ルークはファブレ家にいた頃の彼女の姿を思い出す。穏やかで、物腰柔らかな印象を受ける彼女は仕事が早く、気配りも出来る優しい女性だった。こちらの機嫌が悪いとさりげなく気の触れない程度に宥めようとしてくれた事も何度もある。ガイや他のメイドに内緒でお菓子やジュースを持ってきてくれた事もあるし、そして何より彼女は人を差別しなかった(これに関してはオリジナルルークであるアッシュの事を知らなかったのもあるが)
/
<< Back
- ナノ -