A requiem to give to you
- 夢の話とランチ(2/3) -



ゴーン、ゴーン……と辺りに響き渡るのは祝福の鐘。白い建物。白い階段。辺りを舞う鮮やかに彩る花弁たち。誰がどう見ても、ここは教会で、今日は誰かの結婚式だった。

はて、とグレイは首を傾げた。誰の結婚式だったか、そもそもいつお呼ばれなどしたのか、と考えるも何も思い至らない。まさかド忘れしているだけで自分の……ではないとは思いたいが、それは流石に杞憂のようだ。だって今の己は神託の盾で着ている軍服だったから、流石にこれから着替えるなんてことはないだろう。

ならばきっと何かの間違えでうっかり迷い込んでしまったんだな、と結論を出しその場を去ろうと踵を返す。すると背後から名前を呼ばれた。



「グレイ」



タリスだった。旅が終わってからタリスはヒースと共にバチカルへ戻った筈なのだが、何故、今彼女の声がするのだろう。しかも方向的には教会からだ。え、と思わず声に出しながらそちらを振り返ると純白のウエディングドレスを身に纏ったタリスと………………同じ色のタキシード姿のルークが居た。



「…………は?」



文字にすればまさしく「ポカン」、と言ったところか。頭の片隅でそんなことを思いながら目の前の二人を見つめていると、タリスは幸せそうにルークの腕に抱きつくと口を開いた。



「実は私、ルークと結婚することにしたの」



どう見てもそうなのだろう事は想像に難くはなかった。だがしかし、タリスはグレイの恋人だ。確かに今まであまりそれっぽい事はしてあげられなかったと反省はしていたが、それよりもルークはナタリアの婚約者なのだし、色々と無理があるだろう。



「ナタリアはルークとの婚約は破棄したわ」

「え」

「やっぱり、昔からの約束をしたアッシュが忘れられなくて、バチカルに戻った後にアッシュと改めて婚約を結んだのよ」



だからもう、私たちの邪魔をす障害は何もないの。

そう言ってタリスはグレイを向き直る。



「だからグレイも安心して、あなたを本当に待っている人の元へと行ってあげて」

「え、ちょ……ま、待てって………オイ!」



言うが早くルークを伴って教会へと走り去って行ったタリスへと手を伸ばすが、それが届く事なく直ぐにその姿は見えなくなってしまった。



「………………」



伸ばした手を下げる事も出来ずに呆然と立ち尽くしていると、またもや背後から声をかけられた。



「アンタ、何してるんだ?」

「! レジウィーダ………………って、は????」



ハッとしてレジウィーダの声がした方を振り返ると、そこには予想の斜め上の光景が広がっていた。



「何を驚いてるんだよ?」

「いや、普通に驚くだろうが!! 何だその状況!!?」



それのその筈、レジウィーダはいつか見たような夜空をイメージしたドレス………ではなく、グランコクマを彷彿とさせる透き通ったような明るい青のドレスを身に纏い、ジェイドにお姫様抱っこをされていた。当のジェイド自身も満更な様子でもなく、はっはっはっと笑っている。

そんな尤もなツッコミにレジウィーダはキョトンと首を傾げていた。



「何って………あたし、ジェイド君のお嫁さんになるんだよ」

「初耳!!」



知らなかったのかと言いたげな彼女に大声で更に突っ込むが、しかし二人は悪びれる様子もなく「そう言う事だから」、と言ってさっさとそのままの状態で去って行ってしまった。



「いや、つーかお前も! このままそっちで暮らす気か!? オイ、聞けやゴルァあああああああああああッ!!!」






















「──────と、言う夢を見た」

「「…………………」」



ここはケセドニアにある飲食店。昼間という事もあり、人が賑わいガヤガヤ、と周り音に飲まれそうな位の小さな声で最後まで話し切ったグレイの目はいつも以上に死んでいた。彼を挟んで左側にいたシンクは我関せずに頼んだ料理を食べ進めており、反対側にいたヒースはスイーツを食べているスプーンとは反対の手で労わるようにポンポンと彼の背中を叩いた。



「疲れてるな、お前」

「やっぱそう思うか?」



素直にそう聞くと、親友はうんうんと頷いた。



「戦争の後処理に、神託の盾が出した各地への被害に対する賠償や修繕、その他失った兵力の補填、それから………何だっけ?」

「……まぁ、大体そんなところだな」

「どの世界でも偉い立場にいると苦労が絶えないってのがよくわかるな」



指折りで数えながら思い当たりそうな事を挙げていくヒースはグレイが追われているであろう業務に同情をする。それに関しては彼を挟んで向こう側にいるシンクも同様な筈なのだが、彼程疲れていないように見えるのは気のせいであろうか。



「まぁ、何にしてもその辺に関しては流石に僕じゃ助けてあげられないし………無理のない程度に頑張れよ。あと、ちゃんと寝ろよ」

「それはわかってるっての。あと、不眠症まではいってねーからまだ大丈夫だ」

「………そこに関してはマジで信用出来ないからな」



はぁ、と溜め息を吐いたヒースはグレイ越しにシンクを見た。



「シンク、もしもこいつが無茶するようなら遠慮なくベッドに沈めてくれて構わないからな」

「オイ、勝手なことを頼むンじゃねーよ」



グレイが突っ込むが、シンクは口の中の物を飲み込むと持っていたスプーンを置き、それから親指を立てた。



「取り敢えず死なない程度で良い?」

「気絶くらいがありがたいな」

「良い訳ねーだろ殴るぞテメェら」



そう言いながらも両サイドにある頭を掴んでテーブルに叩きつけている辺り、グレイも大概である。
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