A requiem to give to you
- キッカケの話(6/6) -



【レジウィーダ】

陸也の家から帰り、夕飯も終えてゆったりとした時間の中で、宙は自宅のパソコンの使用許可を貰い早速キャラクターを作り始めた。

性別、髪、目、肌の色、髪型、体型、顔の造形、ジョブ…………と次々と自分の好みに設定していく。一通り形が出来上がると、最後に名前を入力する欄へと差し掛かった。

しかし……



「お、思い浮かばない……」



なかなかしっくりとくる名前が浮かばず、最後の壁を乗り越える事が出来なかった。



「やっば……もう直ぐ約束の時間じゃん」



今夜は四人でゲーム内に集まって一緒に遊ぶ約束をしていたが、あと十分もしない内に予定の時刻となってしまう。

目の前には初期の名前と思わしき意味の無い文字の羅列があるままだ。これでは陸也の事をバカには出来ない。

うーん、とそのまま唸りながら悩んでいると、後ろから声を掛けられた。



「宙ー? さっきから何を悩んでるんだ?」

「げ、…………兄貴」



黒い髪の少年と青年の間くらいの男性。宙の兄でもある未来だった。

優しいが世話焼きなのか、妙にお節介な所があるその人が宙は少し苦手だった。それ故この反応なのだが、悪気がある訳では無い……多分。



「何だよその反応はー。悩める妹を助けようと来たってのに」

「別に頼んでないって」



あっち行って、と手を外に向けて振るが、悲しいかな。そこは宙の兄である。その程度ではめげる事もなくパソコンの画面を覗かれてしまった。



「あ、ちょっとー! 勝手に見るなよ!」

「はーん……このゲームかぁ。お前も遂にネトゲデビューってか」



嫌がる宙をものともせずに、どうやら未来も知っていたらしいゲームの画面を見てニヤニヤと笑っている。



「何? 名前で悩んでんの?」

「……こう言うのやった事がなかったから、どうしたら良いかわからないんだよ」



ぶぅ、と頬を膨らませながらの言葉に未来は意外そうに目を瞬かせると、ふむ……と考えるように辺りを逡巡した。



「まぁ、こればかりは慣れもあるからな。……そうだな」



うーん、と本棚にある漫画や縫いぐるみ、置き物など次々と見ていく中で、最後に目が止まったのはカレンダーだった。

それからピンと閃いたように口角を上げると、再び宙を向いた。



「なぁ、それだったらさ……──────」










二十分後。



「……それで、出来上がったのがこれか」



時間を少しだけ過ぎるも、何とかキャラクターを作り終えて三人と合流を果たした宙は早速自分のキャラクターをお披露目していた。



名前:レジウィーダ Lv.1

ジョブ:ソーサレス

ステータス:××××××
      ××××××
      ××××××
      ××××××

装備:なし

所属ギルド:なし



「ど、どう?」



こんなんで大丈夫? といつもの彼女には見られない自信のなさを感じる声で問うと、返ってきたのは暖かい言葉だった。



「初めてにしては良いんじゃないかな」

「宙らしくて可愛らしいわ」



聖と涙子のそんな言葉に宙は安堵の息を漏らした。



「ホント? 良かったぁー」

「大袈裟ねぇ」



くすくすと笑う涙子に釣られて照れ臭くなって一緒に笑ってしまう。そんな事をしていると、今まで黙っていた陸也の声が聞こえてきた。



「まぁ、こんだけ目立つ色してたらまず間違えないだろーな」

「漸く出た意見がソレかよ」



恐らく彼なりに褒めているのだとは思うのだが、どうにも嫌味にも聞こえるそれに思わず突っ込む。確かに髪は赤くて長いし、反対に目は青いし、何か角も生えてるしでやたらと目立つ見た目にしたのも確かだったので、言い返せばしないのも事実だった。

そんな宙をフォローするように涙子が声掛けてくる。



「良いじゃない。このくらいの方がファンタジー感があって楽しいわよ」



何なら私のキャラだって目立つもの、と水色髪の少女がクルクルと画面内で回っている。確かに宙のキャラと変わらないくらい目立つ。

そんな涙子の言葉に聖も同意した。



「そうそう、ゲームは楽しんでなんぼ。お互いに満足が行く出来になったんだから、早く始めようよ」

「……ま、それも確かだわな」

「そうだね」



聖の言葉に陸也と宙も頷き、漸く四人でのゲームをスタートさせれる事が出来たのだった。








END
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