A requiem to give to you- 蕉鹿の夢(4/4) -
「……何やってんだ、クリフ」
と、その者……トゥナロは呆れたように言うが、クリフはそれには返さず一人恨み言をぶつぶつと呟いていた。
「あんのグレイめぇぇぇ……私のアリエッタを殴った上にあんなぐるぐる巻きにしやがってぇぇぇ……しかもその上あの髭に売り渡すとか有り得ない! これでもしアリエッタが(ピー)して(ピー)で(ピー)な事されたら私はお前の(ピー)を(ピー)で(ピーピー)して更に(ピー)で(ピー)な……」
「やめろし」
色々と語弊が入り交じった上、あまりにも悲惨すぎる放送禁止用語多様な言葉の数々にトゥナロは堪らず、取り出した杖でクリフの頭を殴って黙らせた。
「ちょっと、痛いでしょ」
「痛くしたんだよ。このオレ様の隣で何を恐ろしい事をほざいてるんだ。態とか、態となのかこのクソガキ」
青筋が浮かび上がる程の凄い形相でクリフを睨み付けるトゥナロだが、当の本人はどこ吹く風で先程までの雰囲気が嘘のように「別にー」と軽く返した。
「特に意味はないよ」
「本当かよ」
嘘臭い、と疑いの目で見ながら言えばクリフはバッと口元を覆うと乙女座り(?)をした。
「ひ、酷い! こんな幼気(いたいけ)な子供を疑うなんて……大人の風上にもおけないヨ!」
「SM本を喜んで見たり、自分より年上を捕まえて危ない言葉を言い連ねる奴を幼気とは言わん。それとオレ様は至って善良は大人だぜ」
「善良って言うか寧ろ害悪?」
嗤いながら言われた言葉にトゥナロは溢れ出す怒りを抑えると、絞り出すように悪態を吐いた。
「………ホントに可愛くねェガキだ」
「そっちこそ、カッコ悪い大人だよね。助ける筈が、結果的に助けられちゃってさぁ」
その言葉にピクリと反応する。それに気付いたクリフはフードから唯一出ている口元に愉しげに上げた。
「出られなかったんでしょう? 例の"亡霊"のせいで」
「……………」
「あそこまで時空を歪めるほどのエネルギーを持っているんだ。君の事だから何か感じて助けたついでに彼女に調査を任せようとしたんだろうけど、見事に閉じ込められちゃってまぁ」
情けないの、と笑いながら言われ舌打ちをしたい衝動に駆られるが、そこは何とか耐えて睨み付けるだけに留めた。しかしクリフには効果がなかったが、彼はやがて真剣な顔付きになると改めて口を開いた。
「……で、あの"亡霊"は完全に消えたわけ?」
「さぁな」
トゥナロは肩を竦めて言った。
「だが、人の想いと言うのは強ければ強い程、オレ達が予想し得ない現象を引き起こすんだ。それを奇跡や災厄やらとヒトは言う……まぁ、その時の感じ方によって変わってはくるが。でもそれも、"向こう"が満足すれば全て終わるだろ」
「つまり………また現れるって事?」
「満たされてなければ、な。まぁ、例えまた出てこようと、あいつ等なら何とかするだろ」
「うわー、完全に人任せにする気満々だよこの人」
クリフが呆れたように見て来るが、一切無視した。何故ならば……
(似たようなモノ同士がぶつかって余計な事になっても適わないからな)
心の中でそう呟くと、トゥナロは杖を静かに仕舞った。
END