A requiem to give to you
- 世界に一人ひとつの輝き(4/4) -


「アッシュもそうだけど、君達ってどうしてそんなに被験者だレプリカだって気にするかね」



言ってからレジウィーダは「いや違うな」と首を振って言い直した。



「どうして被験者とレプリカを"同じ存在"として見るのか、だね。あたしにはそれが理解出来ない」

「だって、同じだろ」



レプリカは被験者のコピーなのだから。そう言い返そうと口を開くも、それはレジウィーダの言葉によって飲まれてしまった。



「じゃあ、仮に君に導師としての力があり"導師イオン"として選ばれたとして、君は"イオン"に成れるのか?」

「なに………?」



イオンと同じ様に周りと接し、イオンと同じ様に動き、イオンと同じ思考を持ち、イオンと同じ人を好きになり、またその人を想い続ける事が出来るか?



「例え成れたとしても、外見だけ繕ったとしても、中身【心】までは同じには成れないよ。同じに見えたって、それはあくまでも"似ている"だけ。決して混ざり合う事はないんだ……………だってさ」














君とイオンは全く別の人間なんだから



「勿論、今導師をしているイオン君も。だから当然見ている物も、考えている事だって違う」

「っ、だとしても他の人間達にボク達を区別は出来ないさ!!」

「それは君がそうしようと動かないだけ」



あっさりと言い捨てられた。その言葉にシンクは酷く心臓が跳ねたような感じがし、反論しようとした言葉を詰まらせてしまった。



「シンク」



と、レジウィーダは己を呼ぶ。"イオン"とも"五番目"とも違う名で……まるで、お前は誰でもないとでも言う様に。レジウィーダはシンクの顔に両手を伸ばし、優しい動作で再び仮面を外す。己の深緑と彼女の黒い瞳に互いの姿が映し込まれる。



「あたしはね、例え殆どの人に理解されなくても良いって思ってる」



だって



「本当に自分が大切だと思ってる人達だけが理解(し)っていれば、それだけで幸せだと思うんだ」

「本当に、自分が大切だと思う人………?」



思わず呟くと、レジウィーダは満面の笑みで何度も首を縦に振った。



「それにさ、君は導師としての力がない事を劣化と言うけれど、それは本当にそうなのかな?」

「アンタは違うって言うのかよ……」

「あたしはそれも個性なんだと思うよ。誰だって向き不向きはあるんだ。イオン君やイオンが譜術に長けていれば、君はその運動神経が最大の長所だろ」



だからそんな事くらいで一々劣化だなんだってひねくれてんじゃないの、とそう堂々と宣うレジウィーダ。それがシンクには酷く眩しくて、腹立たしかった。……けれどそれでも、何故かそれ以上文句を言うつもりも起こらず、代わりに出たのは溜め息だった。



「はぁ、アンタってホント…………訳わかんない」



そう呟いて今度こそ歩き出す。それにレジウィーダも止める事なく軽い足取りで着いてくる。



「友達が偶に口にするんだけどさ、『物は考えよう』だよ。シンク君」

「君とか付けるな」

「じゃあ、シンク」



"イオン"とも"五番目"とも違う名でレジウィーダはもう一度シンクを呼ぶ。



「君と言う存在は君だけの持つ、世界にだけの輝きなんだよ」



………なんて、台詞を惜しげもなく吐かれ思わず押し黙る。それと同時に顔に手を当てた。



(こいつ、自分が何言ってるのかわかってるのか……)



恥ずかしいんだよ、と舌打ちをして足を早めた。これ以上この女といるのは精神的に保たない。そう心の中で呟いてからふと我に返る。



(恥ずかしい……誰が?)



臭い台詞を吐いたレジウィーダが? それともそんな台詞を向けられた自分が……………?











………………。











「〜〜〜〜〜っ、アホか!!」

「うわっ、どしたのいきなり!?」



どうしても我慢が出来なくなり叫び声を上げると驚き、心配げに問い掛けてくるレジウィーダ。そんな彼女を「うるさいよ!」と八つ当たりのように怒鳴り捨て、それから振り返る事なく先に進んでいった。















恥ずかしさと共にある、どこか暖かな感情に知らないフリをしながら……───




















それからシンクが自分が仮面をしていなかった事に気が付いたのは、アリエッタの魔物の羽音と何かが落下してくる音を聞いた時だったと言う。













END
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