A requiem to give to you
- 世界に一人ひとつの輝き(3/4) -



シンクは無言で踵を返すと歩き出した。



「え、ちょ……シンクー無視せんといてーっ!」



ディスっちゃんのいる所まで連れてってやー、と突然妙な口調で叫ばれたがシンクは構わず行こうとした………が、それは叶わず、彼の身体はレジウィーダに再びがっちりとその腕を回されていた。



「ちょっと! もういい加減にしてくれない!?」

「そんな連れないこと言わないでー! あたしをちょっと案内してくれるだけでええのよ?」

「やだよ。何で僕がそんな事しなくちゃいけないのさ」



それとそろそろ離さないとぶっ飛ばすよ、と仮面の下から後ろの少女へと凄みを利かせる。しかしそんな事で彼女が退く筈もなく、更には数秒程思案顔をするとならばと言わんばかりにポケットから可愛らしい包みにくるまった飴玉を数個取り出した。



「ほら、飴ちゃんあるよ飴ちゃん! コレあげるからさ、ね?」

「ね、じゃないから。てか、ばっかじゃないの」



そんな子供騙しの手にボクが引っかかる訳ないだろ。本当にアンタってお馬鹿さんだね。

そう言って鼻で笑い飛ばしレジウィーダを貶すシンクの手にはしっかりと飴玉が握られていた。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「時にシンク君」



ふと名前を呼ばれたシンクは余計な付属語に文句を言おうとしたが、口の中に広がる甘さが逃げてしまうと思い、睨みつけるだけに留めながらもレジウィーダを振り返り歩いていた足を止めた。

しかし直後に後悔した。



「………………」

「久し振りに見たけど、やっぱり可愛いなーv」



ヒョイと効果音でも付きそうなくらい軽快に仮面を引ったくられてしまった。そしてこのにやけ顔である。



「……………っ」



しかしシンクは直ぐにハッとして仮面を取り返すと顔に付け、慌てて辺りを見渡した。



「別に見られても問題ないと思うんだけど」



どの道今ここには君の事を知っている人しかいないんだし、と呑気に(そして何故か残念そうに)言うレジウィーダに嘗てない程の怒りを覚えた。シンクは舌で転がしていた飴玉を噛み砕くと今度こそ怒鳴ったのだった。



「いつ誰が来るかも知れないってのに、お気楽な事言わないでくれる!?」

「まぁまぁ、怒らないで」

「煩いよ! 人の気も知れないで、よくもそんな事が言えるよな!!」



渾身の思いでらしくもなく大声を張る自身にシンクは内心酷く焦っていた。



(人の気も知れないって、ボクは何を言ってるんだよ。コイツに気持ちをわかって欲しい訳じゃないのにさ……)



なんなのさ、と心の中で悪態を吐き一つ舌打ちをし、レジウィーダの顔も見ずに背を向けると再び歩き出した。



「そんなに気にする事?」



その場を去ろうとした背中に投げ掛けられた言葉。シンクは「何を当たり前の事を」と思いながらも足を止めて顔だけ振り返った。

そして一瞬だけ息が止まったのを感じた。



「わからないよ。君の気持ち」



そう紡がれた言葉は温度がない。そしてそれを発した人物もまた然り。ただただ温度がなく、どこか冷ややかだ。この感覚は、前にも感じた事がある。確かあれは被験者と会った後に現れたこの女にある問いをした時にもまた、この様な感覚に陥った事があるのだ。だがあの時はまだ「怒っている」と言うのはわかった分マシだった。

これは果たして"怒っている"のだろうか? 変わらずに己を見つめてくる紅に何も言えずにいると、それをどう取ったのかはわからないがレジウィーダは無表情だったそこに膨れっ面を露わにした。


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