A requiem to give to you
- 曖昧で不透明(6/6) -




「一応聞くけど、どこが似ているのかしら?」

「それは………秘密」



敢えて言うのなら、彼女達は一見して感情が……本音が曖昧で、不透明だと言う事だ。ただ、これはわかる人から見ればただの意地っ張りと言うか……俗に言う"ツンデレ"と言うモノなのだろう。しかしこれは言ったら怒られる。間違いなく、怒られる。因みにこれはグレイに言ったとしても同じだ。きっと……いや、確実に顔を真っ赤にして怒る事だろう。だからこれは、自分の心の内に留めておこうとヒースは決めた。

ティアは当たり前だが、納得のいかない顔をしている。それにヒースは肩を竦める。



「そんな顔するなよ。それより………さっきの事、忘れないでね」



そう言うとティアはまだ不満そうな顔をしてはいたが、やがて溜め息を吐いて小さく「わかってるわよ」と言って頷いた。それを見たヒースは頷き返して、数分前まではなかった賑やかな声のする方を見た。



「どうやら帰ってきたみたいだ」



ヒースの言葉に続いてティアもそちらを見れば、ルークとレジウィーダの姿があった…………が、何故かレジウィーダはルークの腕にしがみついて何度も謝っていた。ルークはルークで鬱陶しそうにはしているものの、本気で引き剥がそうとはしていない。それをガイ達がどうしたものかと見つめている様は、何とも愉快だ。

ヒースはティアに「取り敢えずアレを何とかしようか」と促せば、彼女は頭を押さえ溜め息を吐くも、直ぐに仲間達の元へ向かって歩き出した。



「………………」



そんなティアの背を見送り、次いで仲間達の方へと視線を向ける。どうやらタリスとグレイはまだのようだ。しかしルーク達が戻ってきたのなら、そろそろ来る事だろう。

ヒースは先程ティアに言った言葉を思い出した。



『間違った選択をして、後悔をして欲しくないんだ。取り返しの付かない事になって、今まで築き上げたモノがなかった事に……なんてなって欲しくない』



人間関係は、どんなに時間をかけて高く築き上げてきたとしても、ちょっとした行動あるいはたった一言……そう、たった一つの選択の違いで脆くも崩れてしまうモノなのだ。しかし崩れたからと言って、その時までに持っていた感情までは消えたりはしない。過ごしてきた思い出を忘れない限りは、いつまでも心の奥底に残っている。

ヒースは……聖は涙子の事が嫌いだ。けれど昔は違う。親友として、幼馴染みの一人として、とてもとても大切な存在だった。

昔、彼女がした選択を彼は許せなかった。自分達は全てを理解(し)っていた筈だ。それなのに、あのような選択をした彼女が憎かった。気持ちがわからない訳じゃない。しかし、"あの時"は今よりも自分も彼女も、そして他の二人も子供だった。だからこそ、感情が先走ってしまったのかも知れない。

そう、あの時は……子供だったのだ。子供故に、感情に流されるままに、残酷な言葉で彼女を切り捨てた。






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───
──



『一体何を考えてるんだ!!』

『……ごめんなさい、でも……こうしなければ彼が、壊れてしまいそうだったから…っ』



彼女は溢れ出す涙を拭う事無く、途切れ途切れにそう言葉を紡いだ。



『けどお前はあいつの気持ちを知っていただろ!? いくらあの子が今、"あいつら"の記憶を忘れてしまったからと言って………そんな事したら、"戻ってくる"希望を奪ってるようなもんじゃないか……っ』

『………………』



そう怒鳴れば、彼女は黙り込む。まるで「諦めて欲しい」「認めて欲しい」とでも言うように。それが余計に彼の苛立ちを煽った。しかしこれ以上に激情して怒鳴るような事はせず、彼は静かに拳を握り締め、絞り出すように口を開いた。



『………お前には、失望した』



そう言って彼は踵を返した。それに彼女は慌てて退き止めようと声を上げた。



『聖!?』



呼び止める彼女の声に聖一度だけ振り返る。



『さよなら涙子。僕はもう、帰るよ。………だからまた、明日ね





















"皆川"さん』



それは彼が、"涙子"と友達をやめた瞬間だった。



──
───
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あの時の自分の選択も、決して正しいものとは言えないものだった。しかし、認めてしまった負の感情はなかなか消える事はない。況してやあれから二年(こちらの世界にいる年数を合わせるのならもっとだが)以上が経っている。もう修正が利かないかも知れない。

けれど、どんなに嫌いでも、許せなくても、憎らしく思おうとも……大切だと思っていた気持ちが全て消える訳じゃない。それに彼女は親友の守りたいモノの一つでもあるのだ。傷が付けば、その余波は計り知れない。












それに、もしかしたら……また戻れるかも知れない、だなんて期待をしているのも確かなのだ。そして最近、その気持ちが強まりつつあるのを密かに感じていた。結局の所、皆が大切なのは今も昔も変わりはないと言う事だ。

たくさん失った。何も出来なかった。彼女達の想いを守れなかった。だから、今度は守りたい。大切な人達を、大切な人達が大切にしているモノを。今も昔も、ひっくるめて……全部、全部。



(………………)



ギュッと握り拳に力が入る。そんな時、途端に声が聞こえてきた。



「ヒースー! 何ボーッと突っ立ってんだよ!」

「!!」



そんなルークの声に、ハッとする。どうやら思考に沈みすぎていたらしい。……そろそろ行かなければ、と気持ちを切り替えるように大きく息を吸った。



「はぁ………」



それから再び大きな溜め息を一つ吐くと、ヒースは背中にある大剣を支える為のベルトを一撫でし、「今行くよ」と短く言って歩き出した。













END
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