A requiem to give to you
- 曖昧で不透明(5/6) -



「君はルークを甘いと言ったね。でもそれは君が軍人としての常識と言う観点から見て、そう思ったに過ぎないんじゃない?」

「……………」



ティアはやはり黙り込む。だがその表情はヒースの言葉の意味考えているような、思案する顔だった。



「ティア、君が今身を置いている戦いは戦争じゃない。君は別に戦争をする為に戦っている訳じゃないだろう?」

「それは……」



これが戦争だと言うのなら話は変わってくるが、今は貴族もいれば、本来なら軍人でも何でもない一般人だって交えている旅の真っ最中だ。確かに彼女の現実を見据えた物言いはとても大切な事でもある……が、必ずしもそれが重要とする場面ばかりがある訳じゃない。



「ルークの言動は確かに一見すれば"甘え"に見えるかも知れないけど、"まだ"違うよ」

「"まだ"……って?」

「ルークのアレが"甘え"となるか"優しさ"となるかは、今後の彼の選択次第だって思ってる」



甘えと優しさは違う。ルークの言動についてヒースがそう思えるのは、彼が純粋で、それでいて視野が狭いからだ。だが、これから彼の見える世界はどんどん広がっていくだろう。その時にどんな気持ちで、どのような選択をするのかでそのニュアンスは変わってくる。



「ルークの考え方が羨ましい思ってるって事は、彼の言い分もわかるって事だろ。ならさ、もう少し肩の力を抜いても良いと思うよ」

「…………」



その言葉に俯いてしまったティアを一瞥し、ヒースは続けた。



「彼の言葉が、行動が……君の言う"甘え"ではなく、"優しさ"になるように、見ていてくれないか?」

「え……!?」



ヒースの発言が意外だったのか、慌てて顔を上げたティアが見たのはどこか寂しそうな笑顔だった。普段は殆ど無愛想と言っても良いくらい、感情以上に色がない表情をしている彼がするその顔に思わず息を呑む。



「大切な友達なんだ。彼には間違った選択をして、後悔をして欲しくないんだ。取り返しの付かない事になって、今まで築き上げたモノがなかった事に……なんてなって欲しくない」



それはまるで、自らがそんな経験を何かしらの形でしてきた様な言葉だった。ティアは困惑した様子でヒースを見つめる事しか出来なかった。しかしヒースは苦笑を浮かべて言った。



「押し付けがましいってのもわかってるんだけどね。でも、ルークとあそこまで張り合える君なら、彼の事を見ていてくれるんじゃないかって……勝手に思っただけだ。嫌な気持ちにさせたならごめん」

「い、いえ……別にそんな事はないわ。でも……………そうね」



あなたの言う事も確かだわ、とティアは小さく苦笑した。



「ずっと張り詰めていたから、気持ちが固くなってたのかも知れない。あなたの言葉を聞いたら、何だか少し楽になった様な気がする………直ぐに、と言うのは無理だけど……その」



少しずつでも、彼を認めて行きたいわ。ティアはそう言ってどこか照れ臭そうに前髪を指で絡めた。恐らく、これからも彼とは衝突するだろう。何だかんだで我の強い二人だ。でも嫌い合っている訳じゃないし、何よりもティア自身がルークを認めようとしてくれている。それだけでも、ヒースにとってはとても有り難かった。



「ありがとう」



素直にそう言えば、ティアは首を横に振った。



「私はまだ何もしていないわ。それに彼の考えを認めると言っても、私は軍人よ。その考えを捨てる事は、出来ないもの」

「いや……それで良いんだよ。考え方は、選択肢は多い方が良いんだ」



その方が、可能性が広がるだろう。そう言えば「顔に似合わずアバウトなのね」と笑われた。



「あなたはどちらかと言えば、私と同じ様なタイプの人間だと思っていたわ」



つまりそれは堅物なリアリスト、と言う事だろうか。確かにそんな人物として見られやすいが、自分は皆がそう思うほど真面目であるつもりはない。

それに……、と思った所でヒースは先程感じた既視感の正体を理解した。



「どちらかと言えば、君と似ているのはグレイだよ」



そう、彼女とグレイは似ているのだ。他者から見れば「どこが」なんて言われそうだが。事実、目の前のティアの表情は信じ難いと言っている。

しかしヒースは自分の発言を取り消さなかった。



「間違いなく似てるよ、君とアイツは」


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