A requiem to give to you
- 曖昧で不透明(3/6) -



「行っておいでよ」



一言、そう言えば目一杯にその黒い瞳を見開かせた。その間の抜けた顔が可笑しくて、少し笑いながらも彼女の肩を掴んだままくるりと身体を反転させた。そしてポン、と軽く背中を押してやる。



「え、でもティアが…………それに、良いのか?」

「一々僕に確認取る必要性はないと思うけどね。それに、気になるんだろう? だったら行ってくれば良いよ。こっちは大丈夫だからさ」



それからもう一度「行っておいで」と後押しすれば、レジウィーダは小さく頷いて走っていった。



「…………はあ」



その背を見つめ、溜め息。何が気になる、何てのはこの長い付き合いだ。今更訊く必要もない。彼女はルークとよく似ている、そう言えば彼を知っている者ならおおよその答えに行き着く事が出来るだろう(……一応言っておくが、間違っても髪の色ではない)。

それよりも、レジウィーダがあのような事を訊いてきたと言う事は、それ程までに今までの自分が彼女の興味への妨げになっていたのだと思うと頭が痛くなる。折角の彼女の変化の芽を折っていたなんて、とそれこそ今更な後悔だった。



「あれ、レジウィーダは?」



眉間を押さえているとガイが後ろから声を掛けてきた。いつでも抜けるように常に腰に挿してある剣を鞘ごと手で持っていると言う事は、ルークを追おうとしていたようだ。



「フーブラス川へ戻りましたよ」

「レジウィーダもか。……なんだかなぁ」



少し驚いた後に吐かれた複雑そうな溜め息に、ヒースは肩を竦めた。



「直ぐに戻ってきますよ。行くのを戸惑ってるなら無理に行かない方が良いですよ」



使用人としてルークを追いたい気持ちはあるも、先に待っているモノを考えると何となく気まずいのだろう。そう思って「レジウィーダもいますから大丈夫ですよ」と言えば、ガイは苦笑しながら鞘を腰のベルトへと挿した。



「それにしても……困ったもんだねぇ」



と、ガイは顎に手を当てながら呟く。それは今のこの事態の事なのか、慕えている主人の息子の心情の事なのか。どちらにしてもルークの今後に関わってくる事なのだ。親友として、また一使用人としてどうするべきか考え倦ねているのだろう。そんなガイの心情を察すると同時に、ヒースの脳裏に浮かんだのはバチカルに残してきた、南国の海と同じ色の目をしたお姫様だった……………が、



「まだ何がどうなった訳でもありませんし、ガイさんがそうまで深刻になる必要もないと思いますよ」



そう言うとガイはえ、とどこか呆けたようにこちらを見た。



「暫く見守るのが一番ですよ」

「あ、あのなぁ……もしもルークが本気で自覚したら、そっちにだって色々な問題が出て来るんだぞ? お前、友達が心配じゃないのか?」

「この事に関しては心配する必要性を感じませんから。寧ろ、"彼女"には良い薬です」

「どう言う事だ……?」



訳がわからないと言いたげなガイに首を横に振る。



「彼女が……タリスが今まで選んできた選択肢が、己自身を苦しめる事は確かだと言うだけですよ」



況してや、ルークがあの様な心境の変化を見せているのなら、必ずしも彼女の"あの時"の選択は足枷となってくるだろう。あの時の……四人の運命を大きく揺るがす原因の一つとなった、彼女の選択が……───



「…………………、」



小さく溜め息を漏らしガイを一瞥した。彼はまだ何かを言いたそうな顔をしていたが、ヒースにとって当事者らがいない今においてこの話を続ける気もなく、再び肩を竦めると次に話をするべき人物の元へと向かった。


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