A requiem to give to you
- It is vague and is opaque(3/5) -



「……にしても、こりゃまた珍しい物を見たもんだね」



言葉とは裏腹にそれ程驚いた様子もなくレジウィーダは言った。それにルークはやはり二人は普段からあまり恋人らしい事はしていないのだと思いながらも徐に彼女の視線を追う。その先ではタリスがグレイの背に身を預け、グレイは何故かタリスの眼鏡を掛けて彼女から顔を逸らしていた。しかしその表情はどこか安心しているような、穏やかにも見えた。

そんな二人にルークは自分でも気付かない内に掌を握り締めていたが、それを見ていたレジウィーダがふと問い掛けてきた。



「ルークはさ、タリスの事が好きなの?」



好き、とは勿論そう言う意味なのだろう。ルークは一瞬何を言われたかわからなかった。けれど直ぐに意味を理解すると、途端に顔を赤くして怒鳴った。



「ばっ、そ……何でいきなりそんな話になるんだよっ」

「良いから、好き?」



再度問われ、ルークは一度戸惑うも小さく口篭もりながらボソボソと言った。



「っ、わかんねぇよ。そんなの」



違う、とは言わない辺り、少なくとも友達以上の想いはあるのかも知れない。レジウィーダは少し考える仕草を取ると、今度は違う問い掛けをした。



「あの二人ってさ、今幸せだと思う?」

「はぁ?」



ルークが訳がわからない、と言う顔をした。当然の反応である。



「幸せだから、一緒にいるんじゃねぇのかよ」



そう言うと同時にルークは胸の奥に微かな痛みを感じたが、気にしないようにした。それに先程からなかなか要領を得ないレジウィーダの質問が気になり彼女を見れば………どこか寂しげだった。



「あたしはね、なんか違う気がするんだ」

「どう言う事だよ?」

「無理してるって訳じゃないみたいだけど、何か………違うんだよ。なんか」



よくわからないけど。



「わからないって、わかんねぇのは寧ろこっちだっての。お前は一体何が言いたいんだ?」



ルークが少し苛々しながら訊く。レジウィーダは暫し黙ると、やがて先程のルークのように小さく言葉を紡いだ。



「あたしは………アイツが心から笑った所を見た事がないんだよ」

「アイツって、グレイだよな」



それにレジウィーダはコクンと頷く。



「タリスや、回数は少ないけれどヒースだって見た事あるよ。けど、どう記憶を辿ってもアイツだけは見た事がない」



表情が少ない訳じゃない。確かに"笑った顔"は見た事はある。けれどそれらが本当に幸せを感じて笑っているようには思えなかった。タリスといる時でさえ、だ。

今だってそう。安心感はあるようだが、どこか物足りないような感じだ。



「せいぜい、あたしが見た事があるのは……怒った顔とか、意地悪な笑みとか、ふざけた顔とか……」

「あー……」



それは確かに、と指折りで数えるレジウィーダにルークも同意する。本人にかなり失礼な話なのだが、本当の話なので返す言葉がなかった。



「あとは………………泣き顔、かな」

「な、泣き顔?」



あのグレイが、と信じられないと言いたげに続けると、レジウィーダは至って冷静に首を縦に振った。



「アイツだって人だもの。泣く事だってあるよ。それに………」



あたしの記憶に残る初めて見たアイツの表情がソレだったから。

何故、何の為、誰の為に涙を流していたのかは知らない。でも確かにアイツは泣いていた。泣きながらどこかに走り去って、暫くしてから再び彼に会った時には彼女に手を引かれていた。

その時から、二人は恋仲になったんだ。


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