A requiem to give to you
- Wretched wolf(3/4) -



「まぁ、あれだな。先ずは無難に目玉焼きで良いンじゃねーか?」



あれから何とかリグレットを説得したグレイは彼女に卵を一つ手渡した。リグレットは手に持った卵を見つめ、それからキッチンの角にコンコンと軽くぶつけて罅を入れた。そして、






グシャ






握り潰した。



「……リグレットさん、卵の割り方ってご存知デスカ?」

「勿論」



いやわかってねェエエエエッ!!



「じゃあ何で握り潰してンだよ! 途中まで良かったろ! 普通に罅入れたとこに親指入れて開けば割れるだろ!」

「! そうか」



リグレットは何故か納得するともう一度新しい卵を手に取り罅を入れ、






グチョッ






「誰が親指を勢い良く突っ込めって言ったよ!?」

「力の加減が難しいわ……」



いやいや、それ以前の問題だから。



「はぁ………もう、良い」



どうやら彼女に卵を割らせるにはハイレベル過ぎたようだ、と早々に目玉焼きを諦めたグレイは次にご飯をボールに入れてリグレットに渡した。



「おにぎりを作ってみろよ。握ったりするのは得意みてーだし、これなら簡単だろ?」



入れるとしても塩と、中に入れる具くらいだ。リグレットは早速ご飯を手に取り塩を振って握り始める。そして次に具の明太子とチョコレートとレアスパイスとミントとブラックソディとパパイヤとドリアンと…………



「って待て待て待て! 何入れてンだオイッ!!」

「具だが?」

「その具と一緒に明らかに違うモンが色々と入ってる!」

「ああ、これか。隠し味よ」



結構美味しいと思うのだけれど、とリグレットは言う。だがそれは彼女にとってであって、全ての人にそれが通じる訳がない。断じてない。寧ろこれは普通じゃない。



「はぁ………」



とにかく結論は出た。彼女の味覚音痴っぷりは根が強すぎるのだ。重症すぎる。これは直すのはかなり難しい。



「……リグレット、隠し味ってのはな。普段から料理を作るようなプロがする事だ。少なくとも食った途端に人が昏倒するようなモノを作るような奴がやる事じゃねェ」

「良いと思ったのだけれど……残念ね」



あのなぁ、とグレイは盛大な溜め息を吐く。



「人にはそれぞれの好みがあるンだよ。あんたは色々入れた方が良いのかも知れねーけど、逆にシンプルな方が良いっつー奴だっているンだ。誰かの為に料理を作りたいと思うのなら、余計な事はしねーでそいつの好きな物をそのまま作ってやりゃあ良いンだよ」

「好きな物をそのまま、か。そうか……そうだな。それが一番良いのかも知れないわね」



リグレットはそう言って苦笑すると、おにぎりを皿に置いた。



「ありがとう、グレイ。何となく、わかった気がした。今度は皆の好きな物を作ってみるわ」

「! ……そうしてくれ」



突然お礼を言われた事に一瞬だけ反応が遅れるも、どこか照れたようにグレイはそう返した。

そこでリグレットは思い出したように口を開いた。



「そう言えば、珍しいわね」

「あ?」

「私にこうして指南、とでも言うのかしら。お前の言うところの"面倒臭い事"をしてくれているから、少しな」



そう言いながら残ったご飯で塩にぎりを作り始めたリグレットにグレイはどこか言い辛そうに頭を掻いた。



「あー……何つーか、あんたを見てると思い出すンだよ。ウチの姉を」

「姉がいるのか?」



少し驚いたように返すリグレットに頷いた。



「まぁ、な。けど、これがまた凄くてなぁ………味噌汁をフライパンで作ろうとした挙げ句、そのフライパンを溶かすと言う神業をやってのけるような奴だし」

「それは……」



確かに凄いな、とリグレットは苦笑を禁じ得なかった。


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