A requiem to give to you
- 切望(2/3) -



ガタン、と言う物音にオレは読んでいた漫画の本をベッドに置いて窓の方へと歩いていった。外は雨。しかしそれほど強くはない。だが大抵この窓を鳴らすのは雨風か、もしくはとある人物のみだ。カーテンを開ければ案の定、隣に住んでいる幼馴染みが部屋に入ってきた…………が、しかし、どこか様子がおかしかった。



「………聖?」

「悪い、ちょっと風呂貸してくれない?」



そう言った聖は何故か全身泥だらけで、明らかに自然とは思えない程にボロボロの制服を着ていた。そんなそいつの様子に直ぐに事情を察すると、オレは部屋から出ようとした聖の腕を掴んで静止をかけた。



「…………っ」



瞬間、掴んだ箇所から痛みが走ったらしい。聖はうっと呻き、慌てて手を離す。



「あ……ワリィ。大丈夫か?」

「別に、平気だ」



それだけ言うと直ぐに部屋を出て行ってしまった。それに暫し呆然と見送っていたが、それから一つ溜め息吐くと薬箱を取りに行く為、追って部屋出た。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







聖は偶にこうしてオレの部屋に窓から入ってくる。普段、オレが窓からあいつの部屋に入れば必ず「玄関から入れ」と怒って追い出そうとするあいつが、だ。

オレはあいつがこう言った目に遭っているのを知っていた。要するに、このくらいの時期の子供によくある、悪戯の延長のようなモノだ。それも、飛びっきり質の悪い悪戯で、聖はそれの対象とされている。そう言った事になる原因は様々だが、あいつの場合はまず間違いなくあの身体の事だろう。

聖は小学生の頃に大事故に遭っている。それ以降も事故の後遺症なのか、以来あいつの身体能力は激しく減少し、今も尚まともに走る事さえままならない。あいつ曰わく「何かが重くのし掛かっているみたい」だと言うそれは、健康優良児とまで言われたオレには未知の領域だった。だけどそれでも、事故以来ずっとリハビリや鍛錬に励む姿を間近見ていたのだ。その心労は十二分も伝わっていた。

問題なのは何も知らない者達だ。事故の事を知らない奴らからしたら、頑張る聖の姿はさぞ滑稽に映っただろう。そして子供の純粋な残酷さ故にあいつを傷付け、楽しんでいる。

オレはそんな奴らが許せなかった。あいつが抵抗しないから、オレが変わりに奴らを殴った。でも、それでも良いと思った。それであいつが傷付かないでいられるなら。だけど、それもあまり上手くいかなかった。今日のように、オレの手の届かない所であいつを傷つけられた。今日は大丈夫だと、あいつが言った事を鵜呑みにしたばかりに。

あいつには昔から何度も助けられて、支えられてきた。そんなオレが出来る事と言えば、あいつやオレ達が大切と思っているモノを守ることだけなのに。



「………クソッ」



オレは弱い、そして甘い。もっと……もっと強くなりたい。誰も傷付かずに、幸せに笑っていられるように。どっかの馬鹿じゃないが本当にそう、思うんだ……───


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