A requiem to give to you
- 甘苦ブレンド(3/3) -



「こいつが真面目がどうかはともかく、一緒に連れてけよ……」

「その言い方だと僕が一人で図書室に行けないみたいな感じになるんだけど……まぁ、良いけどさ」



聖はもう一度肩を竦めると宙を伴って校内に戻っていった。二人を見送ってから、今度は涙子が溜め息混じりに口を開いた。



「過保護ねぇ、貴方も」

「…………」



陸也は答えず、まだだった昼食を取ろうと弁当に手を伸ばした………が、



「……………………」



弁当箱の中身は空だった。中身は先程聖が全て食べてしまったようだ。



「あンにゃろ……」



陸也は苛ついたように弁当箱を鞄に放り込むと、もう一度寝る為に涙子に寄り掛かって目を閉じた。



「ちょっと、重いわよ。それにお弁当なら私のが残ってるからあげるわよ」

「要らね」



すっかり不貞腐れてしまったようだ。そんな彼の様子に再度溜め息を漏らすと、



「食わなきゃここ(5階)から突き落とす」



そう、笑顔で言い放った。瞬間、陸也が固まったのを背中を伝って感じた。それが何だか面白くて思わず笑ってしまった。



「冗談よ」

「……冗談に聞こえねーンだよ」



ホッとあからさまに安堵する彼に再び笑う。それに再度不貞腐れたように舌打ちをすると涙子の背から離れ、彼女の膝の上に頭を置いて寝転がった。それには流石の涙子も驚いた表情を見せた。



「陸也?」

「ずっと座ってると首が痛ェンだよ。だから膝、貸せ」



もしかして彼は先程の話を聞いていたのだろうか。そう思って涙子は陸也の顔を覗き込むと、微かに頬が紅い気がした。きっと、慣れない事をして相当恥ずかしいのだろう。そんな彼に今度はバレないように小さく笑うと、「仕方ないわねぇ」と彼の頭に手を置いた。



「特別よ?」






宙、あなたは私達に変わりがないと言ったわね。でもね、それは少し違うのよ。

変わったの、みんな。変わったからこそ……今のこの関係があるのよ。けれど、それに気付いている人は殆どいない。目の前の彼でさえも。

でも、でもね………幸せでいてくれるなら、笑ってくれるなら……それでも良いと思ってる。本当に正しい事かどうかは、わからないけど。

只、確かなのは……彼が今の私にとって、とても愛おしい存在と言う事───






再び夢の世界へと旅立とうとする陸也の頭を撫でながら、涙子は静かに春の空を見上げた。












END
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