A requiem to give to you
- ハニーブロンドの憂鬱(2/2) -



マルクト帝国帝都・グランコクマ。水の都と呼ばれるこの街が今の彼が住み、働いている場所だった。世界地図を広げて言うなら、最北東に位置するこの街には国の中心人物が居る。過酷な軟禁生活を強いられ、相続争いを潜り抜け、戦争が終わると共に王座に着かされたとても可哀想な王。










………と、言うのはあくまでこの国の一部の貴族達の見解である。しかもかなりの語弊もある。何故ならば……



「うぉーい、ジェイド! 相変わらず可愛くない面してるなぁ〜」



軟禁生活を強いられて大人しくしていたのならば、この様な数多の警備の目を掻い潜ってこんな所まで来るような脱走癖など身に着かないのだから。

ハニーブロンドの髪を持つ彼……ジェイドは米神を押さえながら溜め息を吐くと、パンパンと両手を叩いた。



「誰か! アホが侵入してます。回収なさい」

「あ、コラお前! 折角抜け出してきたってのにそれはないだろう! しかもかなりの不敬だぞ」

「人の執務室に穴まで開けて仕事をサボるような人に、不敬も何もないと思いますが?」

「お、ジェイド。こりゃなんだ?」



聞けよ、と思ったがこれもいつもの事なので最早諦めている。ジェイドはもう一度深い溜め息を吐くと、一国の王が興味を示している物を見た。



「ちょっと、なに人の私物を漁って………おや?」



何故か私物の入っている棚を漁っている王に文句を言おうとした言葉を呑み込み、彼の持っている小さな箱を取り上げた。



「また、随分と懐かしい物が出てきましたね」

「なぁなぁ、そりゃなんだ?」



もしかしてコレのか、と小指を立てる彼の指を掴み、反対方向に曲げると首を横に振った。



「違います。これは………」

「失礼します!」

「ピオニー陛下の回収に参りました!」



バタン、と勢い良く開かれた扉から二人の青い鎧を纏った兵士が入ってきた。いつもはこの部屋に入る前は必ずノックをする決まりなのだが、緊急時とこの脱走癖の絶えない王ことピオニーの回収時は例外としている。

突然の兵士達の登場にピオニーはゲッとなった。



「もう来たのかよ!」

「先程アレだけの大声で呼びましたからね〜」



いやぁ、お話が聞かせられなくて非常に非常に残念です。ジェイドは飛びっきりの笑顔でそう宣うと、ピオニーは憤慨した。



「クソォ〜陰険眼鏡ぇええええ〜〜!!」



そう言ってジタバタと暴れるも、兵士に両脇から掴まれ、引き摺られながら強制退場となった。静かになった部屋で一人、ジェイドは三度目の溜め息を吐いた。



「全く、困った人だ。いや、それよりも……」



ジェイドは己の手の中にある小さな箱を開けた。箱の中には衝撃吸収の為に何重にも布が巻かれ、それらを一つ一つ丁寧に解いていく。すると中からは銀色に輝く懐中時計が出てきた。それは普通の物に比べ一回り小さく、上蓋の中心に夜を思わせる藍色の宝石が付いている。しかもその宝石は、よく見ると陣のような物が浮かんでいた。



「本当に、懐かしい物が出てきたな」



これは嘗て仲の良かった少女が遺していった物だった。当時の自分は彼女の煩わしさに相当迷惑をしていたが、いなくなった時の虚無感は今でも鮮明に彼の中に刻み込まれている。ましてや自分のせいで彼女の大切な光を消してしまったのだから、尚の事だ。



「……………」



彼女がいなくなってから、かなりの年月が経った。その間には己の研究していた物を禁忌にしたり、嘗て同じ志にあった幼馴染みと縁を切ったり、あの困った王の懐刀と呼ばれるようになったりと……色々な事があった。

だがもしも、今でも彼女がココにいたのなら、また何かが違っていたのだろうか。もしかしたら自分は、今このような気持ちにならないで、普通に笑っていられたのだろうか……?



「…………いや」



確信のない事を考えるのはやめよう、とジェイドは思考を掻き消す。それよりもコレが一度ピオニーに見つかったのだから、このままではいつか無くなりそうな気がした。



「家に、置いておきましょうか」



ここにあったって仕方ないですしね。

そう言って一人頷くと、手に持っていた懐中時計を徐に軍服のポケットの中へと突っ込んだ。












END
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